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40.『桜、咲く』

「うさちゃん」 「何やってるんですか」 「木になりすます練習」 「……」 「あの、宇佐美くん?そのいかにも蔑んでますって目で見るのやめて……?」  太い枝にしがみついて大げさに嘆く様子をいかにも蔑んでますという目で見ていたら、湊先輩はしぶしぶ地面に降りてきた。最後の三十センチを軽快に飛び降りる姿は、とても重病で入院しているようには見えない。  GW明け初日の部活中、この人は倒れた。病名は忘れた。ただ、爽やかな初夏の風が吹く中で握った手が氷のように冷たかったのだけは、鮮明に覚えている。 「咲いてるのはまだひとつだけかあ」  木の根元に腰を下ろして、先輩がせっかちな桜を見つめる。微笑む横顔が思ったより儚くて、心臓が強い鼓動を打った。  そういえば、なんでこの人はここにいるんだ。まさか……まさか。 「うさちゃん」 「な、んですか」 「来月から同級生だな」 「え……」 「留年はするけど、復帰できそう。よろしくな?」  俺の頭を撫でる手は、春に初めて撫でられた時より骨ばっていて、遥かに弱々しくて、でも、とても優しい。 「……びっくりした」 「なにが?」 「死ぬのかと思った」 「ん、俺も」  綺麗な笑顔を浮かべる先輩の前で、俺は――泣いた。

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