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46.『タイトルなし』
急な嵐ですっかり花が落ちた夜の公園を僕らは歩いていた。隣を歩く衛(まもる)とは学生の頃からの付き合いで、危機もあったが乗り越えるたび絆を深めていった。お互いの仕事も充実し、このまま二人で老いていくのだと思っていた。
……そう思っていた。
最近彼の様子がおかしいことは気が付いていた。隠れて電話をしていたり、彼一人で出掛けることが増えている。
駅からここまで会話もなく、衛の表情は硬い。重苦しい気分で下を向くと踏み潰された桃色の花びらが目に映った。別れ話には散った桜がお似合いだということか。
「見ろ! 咲いている!」
突然の衛の声に反射的に顔を向ける。彼の骨ばった指の先には、外灯に照らされた桜が一房咲いていた。力強く残るその美しさと、それを見る彼の笑顔に思わず泣きたくなる。最後の思い出にしたら最高すぎる景色じゃないか。
彼は僕の方を向き、笑顔を引っ込めた。胸の奥がつきんと痛む。僕は別離の言葉を覚悟した――。
「一緒の籍になろう。お互いの親は説得してある」
*
「桜が咲いていたらOKもらえる願掛けしていたんだ」
帰り道、彼は照れながらそう教えてくれた。
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