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45.『夢の欠片』

夢を見ていた。 満開の桜の下、君と見上げる夜桜は暗闇に浮び上り神秘的な表情を見せる。 見上げる君と満開の桜。脳裏に焼き付いた光景はいつまでも色褪せようとはしない。 何度も夢にみる。 もうこの手に抱きしめることのない君の残像が俺に夢を見せてくれた。 昼間と表情を変える夜桜をただ見つめる君が愛おしく、舞い散るその瞬間まで何度も足を運び君との幸せを噛み締めた。 今はその場所に一人立ち、君の好きだった桜を見上げている。 神秘的だと思っていた。それは君がいたからなのだと思い知らす。 胸を抉るようなその思いもまた消化することのない残像。夜風に吹かれひらひらと舞い散る桜の花弁はあの時の君の綺麗な泣き顔を思い出させる。 涙を零す君に手を差し伸べるべきだったんだろうか。ドアを開け振り返った背景にも色を濃くした夜の闇が広がっていた。その姿をただ茫然と見つめ、かちゃりと音を立てその闇に君が消えていくのをただ黙って見送ってしまった。 あの時、君を引き止めていたとしても楽しかったあの日々はもう帰ってはこなかっただろう。泣いて縋り付くことのできなかった後悔はもう私を苦しめたりはしない。 君は…想いの人とこの光景を見ているのだろうか。 幸せそうな君のその横顔を君の想いの人は愛おしさを感じているだろうか。 手の届かない君を想いながら夜桜は闇を際立たせ、切なく君の残像を見せていた。

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