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番い鳥

夕日の光を受けて、湖の水面がキラキラと黄金色に光っている。 昴は眩しげに目を細めると、隣に座る亜鷹の肩にもたれた。 寄り添った二人の影は長く伸びて一つになっている。 「ごめん」 唐突に謝られて、昴は亜鷹を見上げた。 「昴が猛禽獣人のΩだってこと知ってたのに、ずっと言えなかった」 申し訳なさそうに目元を伏せる亜鷹に昴は首を振った。 「いいんだ。ずっとそばで守ってくれてたんだろ?」 昴は今にも泣き出しそうになっている情けない顔の男前に笑って見せると、「ありがとう」と呟いて唇を重ねた。 不意打ちの口づけによっぽど驚いたのか、亜鷹の目がまん丸になっている。 「鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔」 思わず吹き出すと、亜鷹の顔がみるみる真っ赤に染まった。 「聞き捨てならないな、俺様が鳩だと?」 照れ隠しのように押し倒されて、首筋や額に鼻をすり寄せられる。 戯れるたびに、斑ら模様の羽根と純白の羽根が舞い上がり夕日の光を受けてきらめいた。 綺麗だ。 こんな美しい世界がこの世の中にあったんだなと思う。 亜鷹とこうして番いにならなければ今も昴は生きることに精一杯で、自分の幸せというものからは目を背けていただろう。 Ωという性を呪い、自分で自分を蔑んでそこにある小さな幸せにさえ気づけなかった。 ふと父親のことが頭に浮かんだ。 「昴、どうした?」 亜鷹が不思議そうに覗き込んでくる。 「父さんは幸せを見つけられたかな」 昴が純粋な猛禽獣人のΩなら、きっと昴の父親と母親も猛禽獣人だったはずだ。 憶測だが物心ついた時にすでに母親がいなかったのは、彼女が短命だったからなのかもしれない。 そしてこれも勝手な憶測なのだが、父親は番いというパートナーであり大切な人を亡くして心を病んでいたのだろう。 ある時突然帰って来なくなったのは、新しい番い…いや、父親にとって大切な人を見つけることができたからだと昴は信じたかった。 「きっと幸せだ、俺みたいに」 胸を張って答える亜鷹に昴は笑いながら頷いた。 「そうだね」 「言っとくが俺は昴が稀少な獣人Ωだから幸せってことじゃないからな。確かにお前の匂いは強烈で凄くエロいけど…でも俺はどんな昴も好きで…」 もごもごと口籠る亜鷹に吹き出してまたじゃれあった。 これから先のことを考えると、やっぱり不安になる。 この力に目覚めてしまった以上、何もかもこれまで通りとはいかないだろう。 人の世の中で、鷹として生きていくべきかそれとも人として生きていくべきか。 何が最善な選択かなんてわからないし、それを今すぐ決めることはできない。 しかし、もう昴は孤独ではない。 番いとなった亜鷹がいて、彼はきっと言葉通り昴を見捨てたりはしないから。 だから今度は二人で生きていく。 悩みも悲しみも喜びも分かち合って、この優しくて残酷な世界を二人で生きていく。 「これから忙しくなるぞ」 額同士をくっつけながら亜鷹は悪戯っぽく目を細めた。 「なんで?」 「俺たちは今から繁殖期に入る。しばらくは寝かさないからな」 強引な言葉と甘い声色で囁かれて、昴は呆れながらも微笑んだ。 「じゃあ家に帰ろう、僕たちの家に」 「そうだな」 茂みの影から二羽の大鷹が大空へ舞い上がる。 二羽の鷹は戯れるように交差すると、寄り添いながら夕日に向かってその影を小さくさせて行った。 疾風に乗って鷹が飛ぶ。 end.

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