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アネモネ 第11話
大きな雄を受け入れた時には、俺の力は完全に抜けていた。痺れるような快感が太ももから後孔、お腹を通り背中へビリビリとゆっくり上がってくる。
山下さんの腰が動く度に自然と声が漏れた。横向きの体勢は、唯一理性を保つ境界の肩にさえも、彼の荒い息がかかる。気持ちよすぎて何が何だか分からなくなるのだ。
あったかくて、心地よくて、気持ちがいい。
「あっ……あ、あ、あん、ぁ……、ん、ふっ、ぁ、ぁん……」
男の喘ぎ声はただ気持ち悪いだろうなと思っても自制が効かない。
後ろで愛しい人が眉をひそめて腰を振ってるなんて、想像しただけで達してしまいそうだった。
「向田。もっと、声、出していいよ」
「ふぇ……むり……ぁっ、ぁう……」
だから。出したくて出してる訳ではないのを説明する隙さえない。
挿れたまま、くるりと身体が回転する。足の間からようやく山下さんを真正面から見ることができた。
やっぱり俺はこの人が好きだ。くたびれていても凛々しくても、何をしていても大好きだ。
「山下さん、気持ちいい、ですか?」
「ああ。気持ちいいよ。向田は?」
「俺も。幸せです」
まるで返事のごとく、奥まで抽挿される。いやらしい音を立てて粘膜が擦れた。電気のような快感が背中を走る。
「あぁっ……ん……どうにかなりそう」
「なっていいのに」
「いじわるですね。ぁ……ぁ、ぁ」
萎えない俺の息子を大きな手のひらが優しく包む。そしたら自然と腰が動く訳で、達しないように慌ててお腹へ力を入れた。
「急に絞めんな。ゆっくり向田を味わうから、向田のペースで感じてよ」
「今度はおっさんくさい。手、離してください」
「イきそうだったか。お前は可愛いな。ずっと傍にいたのにな。気付くの遅くてごめん」
「本当に。どこ見てんのって思いましたよ」
2人で笑い合う。次第に笑い声が俺の喘ぎ声に代わり、それは明け方まで続いた。
生きていてよかったと生まれて初めて思った。
あれから半年。
山下さんはまだ俺の狭いアパートにいる。不景気のせいでマンションは未だ売れず、新居で暮らすという約束は叶えられないままである。
山下さんは売れるのを待っていたらいつになるか分からないから、新居を構えようと言うけれど、俺は首を縦に振らなかった。
「……できた」
溜まったワイシャツのアイロンがけが完了した。来週は忙しいから駅前のクリーニング屋さんにお願いしよう。あと、風邪気味の山下さんに薄い上着を用意しとかないと。
この小さく箱庭のような空間で彼の世話をするのがたまらなく幸せだ。
はかなく、見捨てられた恋が時間をかけて実を結んだ。ほんの少しの間でいいから浮かれた気持ちを全力で味わいたい。
山下さんからの帰りを知らせる携帯音に俺は喜んで立ち上がった。
【アネモネ 完】
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