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はじまり
「…体が痛い」
やがて目を覚ましたヒヨリの第一声は不満を訴える言葉だった。ソファに座って起きるのを待っていた俺のことには気づいていないようで、まだ眠そうに目を擦る。
痛みに顔を歪めながらベッドから出ようと起き上がるヒヨリの元へ駆け足で近づいて髪を鷲掴み、再び布の上に叩きつけた。
「うっ、アドルフさんっ」
「いくつか聞きたいことがある」
そう言うと不思議そうな表情を浮かべたが、すぐににこりと笑んだ。
「うん、何?今は俺嬉しい気分だから何聞いてもいいよ。でもそろそろ手は放してほしいなぁ。髪の毛抜けそう」
「話が終わったら放してやる」
嬉しい?あんな酷いセックスして、しかも獣人と人間で番うなんていう最悪な状態に陥っているというのに?
つくづく可笑しな奴だと思った。
「お前、マホギを知っているな。してる最中、俺がお前のことをそう呼んでも全く戸惑ってなかった。それどころか応えたな。マホギとはどういう関係だ?」
知りたいが、聞くのが怖い気もする。でも突如として現れたマホギに関する情報源。心を決め、静かに待った。
「俺の兄さんだよ。何年か前に他所の国に行っちゃったんだけどね」
「兄弟…?アイツからそんな話は…」
「話すと長いけど、簡単に言えば俺のことを隠すためだよ。オメガがどういう扱いを受けるのかは知っているでしょう?」
心根の優しいマホギの事だ、確かにそれは考えられる。
「お前がこの屋敷に来たのは何故だ?偶然か?」
「うーん…運命、かなぁ。アドルフさんの事は兄さんから名前だけ聞いてたんだ。兄さんの愛した人だもの、いつか会いたいって思ってた。で、こうやって売られて来た。ね?運命だよね?」
「気味の悪いことを言うな」
俺の運命の相手はマホギただ1人。コイツじゃあ無い。
その相手と一緒になれなかったというのに、その弟のヒヨリが今、目の前に居る。何という皮肉。
「兄さんは好きな人と番えなかった。すごく後悔してたし苦しんでた」
「…知ってる」
「だから俺、せめて兄さんの幸せをどんな形でもいいから守らないとって思って」
「どういう事だ」
「テイラー家の人は跡取りの事とかで必ず誰かと番わないといけないでしょう?アドルフさんが全く知らない誰かの物にならないようにしたかったんだ。だってアドルフさんは兄さんの物だもの」
「…何言ってんだお前」
「これでもうアドルフさんは誰とも番えない。こんなに嬉しいことは無いよ」
柔らかく微笑むヒヨリに恐怖を感じた。思わず手が緩んでしまう。
「俺を買って、後悔した?」
ああ、どうやら俺の人生は狂い始めてしまったらしい。
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