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1 新年度

 あくびをしていると、隣に座る桐山先生にじろりと睨まれた。始業式中だからもっとしゃきっとしろ、とでも言いたげだ。  しかし、仕方ないのだ。昨日は、これから忙しくなるだろうから、と健二に抱き潰されほとんど眠れていない。健二はさすがというか、あまり寝てないのに元気だ。  長い理事長の話も終わり、始業式も終盤にさしかかる。ああ、終わったら保健室で寝よう……。  *  始業式後、保健室でしばらく寝て、目覚めると夕方になっていた。これで昨夜分は寝れただろう。  健二が邪魔をするかもしれない、と用心していたが来なかったようだ。ラインを見ると、先に帰宅していて構いません、とあった。本当に忙しいようだ。 「あー、動きたくねえな……」  ベッドでそのままゴロゴロ転がっていると、誰かがやって来た。 「おや、黒瀬先生。いたんですね。よかった」 「げえっ、宮村! 何しに来たんだ」 「ちょっと雑談をしに。ほら、のこと、気になるでしょう? 」 「……まあな」  約2年前、有働隼人と共に学校を辞めた宮村優也。何の気まぐれか、4月から彼だけが戻ってきたのだ。  宮村の言う彼とは、隼人のことだろう。俺が一時期片想いをしていたことを知っていて、わざわざ言いに来たのだ。 「隼人は今、専業主夫してます。もう二度と教師には戻らないぐらい、充実した日々を過ごしてますよ」 「へえ」  はっきり言うと、宮村はヤンデレという奴だ。既婚者であった隼人を奥さんから引き剥がした。そして、今は宮村と同棲している。ちなみに宮村と隼人の元奥さんはかなり揉めたらしいが、最終的に元奥さんは手を引いて実家に戻ったという。つくづく口がうまいやつだ。  隼人の近況をあれこれ話す宮村だが、写真は見せようとしない。最後に見た隼人は、かなり元気のない様子だったから心配だ。だから思いきって聞いてみる。 「なあ、有働は元気なのか? 」 「ええ、もちろん。先程からの話聞いていたら分かりますよね? 」 「写真はねえのか? 」 「──仕方ないですねえ。まあ、あなたは彼氏がいるみたいですし……特別ですよ」  渋々といった感じで写真を見せてきた。昨日撮ったというその写真には、心の底からの笑顔を浮かべる隼人がいた。まあ、確かに最後に見た時より元気そうだ。 「そういや、お前何で戻ってきたんだ? 」 「お金がつきそうだったからです。それに、二人して無職だと周りがうるさいんです。それで、仕方なく」 「へえ」 「それじゃあ、帰りますね。さよなら」 「おう、二度と来んなよ」  俺は宮村を見送ってから帰り支度を始めた。  *  帰宅後。俺は限界まで健二を待っていたが、帰ってこなかったので作りおきを温めてから食べる。一人で食べることなんてあまりなくなっていたから、すごく寂しい。かと言って次郎の店や最近彼女が出来たらしい漣の家に行く気にはなれない。  さっさと食べ、シャワーを浴びる。眠くなるまで帰宅を待っていたが、結局俺が眠気に負ける方が先だった。 速水健二視点  新年度となり、まず始まったのは5月にある体育祭に向けての準備だった。文化祭より準備は少ないのでは、と思っていたがそうではなかった。新体育委員長を筆頭に体育委員会が当然仕切るのだが、生徒会もサポートをしなくてはならないという。しかも、体育委員長は4月に就任したばかりの新人だ。ほとんど何も出来ないに等しい。 「これはこうでよいのでしょうか……」 「一々確認するな! 体育委員長ならもっとしっかりしろ! 」 「は、はい! 」  余程不安なのか、ちょっと作業をしては確認をしてくる。それにイライラしていると、莉菜がこちらにやって来た。 「まあまあ、あんまり怒ってちゃあやる気無くしちゃうから程々に、ね? 」 「だがなあ……」 「早く帰りたいかもしれないけど、今回はダメよ。まあでも再来週辺りからは練習が始まるから、そうなったら先生も学校に残るし、存分にいちゃつきなさいな」 「……そう、だな」  時刻を見ると、もう19時を回っていた。多分、翔馬先生はそろそろ眠る頃だろう。今日は諦めよう……。  *  結局解放されたのは20時近く。私立で尚且つ寮もある為、校門が閉まるのはかなり遅い。寮の門限に合わせて20時30分だ。ちなみに翔馬さんに聞いたら、昔は21時だったらしい。  マンションに向かって歩き出すと、隣にある病院から園田さんが丁度出てきた。その隣には女性が。看護師だろうか。  彼はこちらに気づくと、声をかけてきた。 「こんばんは、速水くん。こんな遅くまで大変だね」 「こんばんは、園田さん。ええ、生徒会長ですから。サボったら赤坂からこっぴどく叱られますし、仕方なくです」 「あはは、そうか」 「それで、園田さんはこれからデートですか? 」 「ああ、まあ、そんなところかな」 「漣さん、早く行きましょうよ」 「分かった──じゃあね、速水くん」 「はい、また」  2人を見送り、再び歩き始める。マンションの自室に着くと、翔馬さんがリビングのソファで寝ていた。もしかして、待っていてくれたのだろうか。だとしたら、申し訳ない。  俺は翔馬さんを抱え、寝室のベッドに寝かせる。襲いたいのを我慢し、そこから離れた。  夕食を食べ、お風呂に入ってから片付けをする。結局、ベッドで横になれたのは22時30分過ぎだった。

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