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2 再会

 翌朝。俺は珍しく父親に呼び出され、健二の朝食を食べる暇もなく家を出た。父親が俺を呼び出すなんて、何があったのだろうか。  慌てて実家に行くと、二番目の姉以外が勢揃いしていた。 「どうしたんだ、父さん」 「私の兄が倒れたんだ。ほら、大学の理事をしているあいつだ」 「あー……それがどう影響するんだ? 」 「独身の兄がもしそのまま亡くなれば、跡目争いになるし、翔馬、お前だって対象だ」 「……でも、俺は」 「ああ、お前はやりたくないだろう。だがな、兄に一番近いのが我々だ。親戚中から色々やかましく言われるだろう。そこで、だ。この紙にサインしろ。千秋、千春もだ」 「「はーい」」 「分かった」  文昭おじさんは昔から酒豪だから、倒れたことについては驚かなかった。しかし、文昭おじさんには奥さんもいなければ子どももいない。つまり、後継者は親戚の中から選ばれる。それは激しい争いになるだろう。だって、高校以上に凄い私立大学の理事だ。私立だというのに志願者数が減らない、魅力的な大学だ。  俺と姉二人がサインをする。午後からはお見舞いに行く、とのことで一回解放される。今日は俺は休みにしてくれているとのことなので、とりあえず健二にラインをする。 『俺のおじさんが倒れたからって父親に呼び出された。今日は学校には行けない、すまん』  俺は返事を見ることもなく、スマホをポケットに入れた。  おじさんが入院しているのは、大学の近くの病院だ。ここからだと少し遠い。 「面倒だし、お昼をどこかで食べてから行きましょう」 「お、そうだな」  母親の提案により、昼前に出発することとなった。  *  お昼を病院内にあるレストランで食べ、午後からお見舞いへ。病室(しかも個室)ではおじさんが元気そうに雑誌を読んでいた。その傍らには、見たことのない男性がいた。 「おお、皆来たのか」 「千波以外な。あいつはどうしても休めないと来ていない」 「そうか……」 「おじさん、倒れたわりには元気そうですね」 「ほんとほんと、心配して損したー」 「こら、千春」 「はは、まあ、倒れた時にすぐ彼が介抱して病院まで運んでくれたからね。全てはこちらにいる彼のおかげだ」 「はじめまして。板野亮といいます。48歳です。文昭さんの恋人です」  ニコニコ笑う男性はさらりと言った。見舞いに来た俺たちだけでなく、文昭おじさんでさえ微妙な表情をしている。  ただ、父さんだけは別の反応をした。 「文昭兄さん、お、お前、いつからゲイに……? 」 「いつから、って……昔からだ。ていうか、俺は両性愛者なだけだ。じゃなきゃ、あいつと結婚はしてない」 「はは、だ、だよな……」  ちらちらと俺を見ながら質問をする父さんはかなり動揺している。──悪かったな、ゲイで。  父さんはそのままふらふらと病室から出ていく。まるで病人みたいな足取りを心配して母さんがその後に続く。  次に残された俺達姉弟の内、千秋姉さんが電話がかかってきたからと出ていき、千春姉さんがついでに出ていく。気まずい俺も続こうとする。 「翔馬くん、君はたしかゲイだよな? 」 「え、あ、はい」 「オープンにしてるのか? 」 「いえ。でも、女性が苦手なもので邪険にしている為、あいつはホモなんじゃないかと勤務先では噂されています。俺の場合、オープンするしないは関係ありませんね」 「……そうか。さっきは弟の為に両性愛者とは言ったが、実はそうではないんだよ。わずか2年間妻だったあいつの最期の望みを親友として叶えてあげただけに過ぎない。墓場までこの話は持っていくつもりだったが、翔馬くんなら大丈夫だろう」 「はあ」  文昭おじさんはにっこり笑ってそんな話をした。同じゲイだから明かせるのだろうな。  俺は話を聞き終え、病室を出た。 「やあ」  ──そして、とんでもない奴に出くわしてしまった。 「お前……」 「やだなあ、兄さんって昔みたいに呼んでくれよ」  父さんの弟、文信おじさんの息子で従兄の圭さん。一時期俺の家庭教師をしていて、そして──久本以上に俺に執着してくる、変人だ。 「すっかり大きくなったけど、可愛らしい顔は相変わらずだね」 「……」 「あれ? 無視? 」  俺は彼を無視して病院の外へ。しかし、彼はついてくる。  仕方なく無視をやめ、話を聞くことにした。 「こんな場所だとあれだし……ね? 」  近くの公園のベンチに座り、話を聞くことになった。距離を開けて座るが、詰め寄られてしまう。しかも──口にキスをして来た。 「っ──!? 」  嫌悪感から圭さんの肩をつかんで引き離そうとするが、彼はびくともしない。それどころか、益々深くなっていく。  苦しくなってきた時にやっと彼は口を離した。そして、にやりと笑う。 「もう一度やり直そうよ」 「……嫌です」 「ふうん、そうか。じゃ、またね」  圭はなぜかあっさりと身を引いた。その代わりなのか、ラインの連絡先を交換して帰っていった。  大学生の時、彼が怖くて俺は久本に逃げたようなものだった。事情を話すと、久本は俺を守ってくれた。そして、久本の執着心を強めたのも俺が原因だ。  健二はこのことを知ったら、どう思うだろうか。  *

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