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3 すれ違い
健二視点
すれ違い生活が始まり、数日が過ぎた。翔馬さんは学校を休んだ日、一応帰ってきたらしいけど姿を見ていない。洗濯機に入れられた洋服を見て、ああ帰ってきてたんだ、と知った。
その翌日も、また翌日も。朝ごはんすら一緒に食べれなくなった。原因は、赤坂の思い付きだ。放課後に残りたくないのなら朝からやったらいいわ、と鍵を渡された。仕方ないから朝早くに来ている。
「終わった……」
そして今日。やっと一通り終えた。あとは赤坂に全て押し付けてしまえばいい。もう疲れた。翔馬さん不足だ。
早速保健室に向かったが、誰もいない。──寂しい。時計を見ると、来ていてもおかしくはない時間。翔馬さんに限って、まさか職員室に行くのはあり得ないし……。
とりあえずラインをしてみよう。
『今どこにいるんですか』
『翔馬さん不足です』
『会いたいです』
しかし既読すらつかない。一体、どこにいるのだろう。
*
散々校内を探し回ったが、やはりいない。朝のHRが始まるチャイムも無視して、図書館に向かう。あと探してないのはここだけだ。
ノックもせずに扉を開ける。司書の先生は一瞬びっくりしたが、俺が生徒会長だと知っているからか、無視してくれた。
奥にある席に向かうと、翔馬さんがいた。見知らぬ男性と一緒だ。
「翔馬、案内ありがとう」
「──理事長命令ですからね。そこどいてくれません? そろそろ戻りたいんですけど」
「別にサボっても構わないでしょ? もっと一緒に──」
「黒瀬先生! 」
「な、速水!? 今HRの時間じゃ……」
「そんなのどうだっていいでしょ!? ほら、戻りますよ」
「あ、ああ……」
翔馬さんの手を引いて図書館を後にする。ちらりと男性を見ると、なぜか不適な笑みを浮かべていた。
保健室に戻り、翔馬さんから事情を聞く。授業を多少サボることになるが、後で赤坂に聞けばいい話だ。
「あの人誰なんですか」
「写真部の外部顧問で、俺の従兄の黒瀬圭だ。それなりに有名な写真家だからって、理事長が直々にお願いしたらしい」
「へえ。それで、翔馬さんとはどういう間柄ですか? 」
「昔は頼れる兄だった。圭さんも俺のことは弟のように思っていたんだろうが、実際は違った。俺のことを、その──好きらしい」
「はあ? 」
「中学生の時に好きだと言われた。以来、キスだってしたし、その、それ以上も──」
「……最悪」
翔馬さんは久本が初めてじゃなかったのか。俺は軽くショックを受ける。
そんな俺に対して翔馬さんは更に説明を続ける。
「ただ、俺からは恋愛感情なんて無かった。何度抱かれても、やっぱり兄としか思えなかった。それに──あいつ、当時は何股もしていたから、本気になんてなれなかった」
「最低な男ですね。まあ翔馬さんからの恋愛感情が無い分、不問にしましょう。ところで、昼休みまで一緒にいて構いませんか? 」
「え、お前授業──」
「んなの後でどうでもなります」
本当はヤりたかったが、ここで抱き潰すことはしたくない。下手すれば早退させることとなる。それは嫌だ。
だから、ただただ一緒に過ごすことにした。
*
昼休みが終わる20分前。名残惜しいが保健室を後にし、生徒会室に赤坂を呼び出す。その生徒会室に入ると、赤坂はやはり怒っていた。
「あなた、生徒会長なのよ!? なのに、HRから行方くらますってどういうことよ! こっちは大変だったんだから! 」
「最近すれ違い生活だったから、翔馬さん成分を補給しに行っていただけ」
「だとしてもねえ、一言ラインしてくれたら──」
「すっかり忘れてた。──あ、それよりも聞きたいことがある。黒瀬圭、って知ってる? 」
「え、ああ、写真家の? たしか4月から写真部の外部顧問になったのよね」
「そいつ、翔馬さんを狙ってるらしい」
「はあ!? だって、彼、黒瀬先生と従兄弟でしょう? ありえないわよ」
「それがありえるんだ。あいつ、翔馬さんを無理矢理抱いたりもしたらしいし……」
「うわー、待って、今私の中の理想のイケメン・圭さん像がガラガラと……あー、やだ、理解したくない……友達と一緒に盛り上がっていたのにぃ……」
赤坂曰く、既に女子の間ではイケメンな方の黒瀬先生として有名らしい。しかも、彼は不在がちな教頭のサポートもするべく毎日のように朝から学校にいるという。それは厄介だ。
「なあ、今から取り消せないのか? 」
「は? 無理よ。そんなの、理事長に楯突くことと同義なんだから」
「速水家はかなり寄付しているのにか? 」
「それでもダメ。それに、うちの写真部って結構スゴいんだから」
「……」
「あのねえ、気にくわないかもしれないだろうけれど、監視カメラもあるし大丈夫よ」
「分かった」
昼休みも終わる間近だし、ととりあえず頷く。赤坂が持ってきたサンドイッチを素早く食べ、教室に向かった。
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