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エピローグ
光牙が好き。俺には光牙だけ。
気持ちを伝えたい……
「仕事行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
思ってもなかなか行動に移せなくて……
勇気はドンドンしぼんでいく。
今日こそ……
決心したのに帰ってこない。
ベッドは光牙の甘い匂い。毛布を抱きしめて目を閉じた。
夢を見た。光牙が俺を抱きしめてくれる幸せな夢。
誰かが頭を撫でてる……光牙?
眠たい目をこすり、光牙に抱きついた。背中に手を回してキスを強請 る。
「ユイト!!」
遠くから光牙の大声が聞こえる。
…………え?じゃ、この人は。
一気に目が覚める。驚いて離れるとその人は光牙に似た違う人だった。
そんな。光牙だと思って……
「牙 。手を離せ。
いくら従兄弟のお前でも容赦しねぇぞ。」
凄い怒ってる……
「怒るなって。光牙。ただの事故だろ……
ウサギちゃん、あまり虐めるなよ。」
宥めるようにその人が話す。
「うるさい!出てけ!」
聞いた事のない光牙の怒鳴り声に体温が下がる。
牙と呼ばれたその人は部屋から出て行き、部屋がシンとなる。
「アイツが気に入った?なんで、お前……
俺が……止めなかったら……」
「ち、違……」
「αなら誰でもいいのか。これだから、ウサギのΩは……」
吐き捨てられた言葉。静かな怒り。
自分へ向けられショックで押し黙る。
違うよ。光牙……俺は……
説明したいのに言葉が出ない。
こんなに怒ってるの初めて……
怖くてどうしたらいいのか、分からない。
言葉が出なくて代わりに涙が出てきた。
光牙は俺の涙に気付いて手を伸ばしてきた。
身構えてしまい、ビクッと体が震える。
光牙は伸ばした手を元に戻して、ため息をついた。
「…………ごめん。頭冷やしてくる。」
光牙が背を向け、思わず手を握る。
「待って……置いてい、かないで……」
声に涙が交じる。
信じてもらえなかったとしても……
ちゃんと説明するんだ。自分の言葉で。
「ひっく……ごめ、んなさい。
俺、寝ぼけてて……っ。光牙と間違えたんだ。
誰でも良いわけじゃない。
…………俺がしたいのは光牙だけ!」
「俺と間違えた……?」
「光牙の夢を見てて、匂いも似てたから。」
必死に光牙の腕を掴む。
「俺の夢って……」
戸惑う光牙。
意を決して顔を上げる。
「光牙の一番になれなくてもいいから、側にいたい。ううん。光牙が他の人の所に行くのは辛くて苦しいから……せめて……俺が見ていない時に……
嘘でもいいから『俺だけだ』って言って。そしたら、ちゃ……んと……信じ、るから……」
我慢したかったのに言葉にしたら、次々と涙が流れる。
「どう……して。俺に優し、くしたの……
ぐす。うっ……やっぱり……やだよぅ……
……光牙。どこにも行かないで……
俺、もっと…………頑張る……から……
…………光牙が……好きなんだ……」
支離滅裂な願い。
泣きながら言葉を繋ぐ。
光牙は驚いた顔をしてから、それでも躊躇いがちに抱きしめてくれた。
「一番……って、まるで俺が浮気してるみたいな言い方だな。」
「実は何日か前に□□□□に行くって話してるのを聞いちゃって。夜、何度も出かけてたから……それに……他の人の……匂い……が……」
「お前、毎回、起きてたのか。
そうか。半獣人だから……
馬鹿だな……早とちり。お前が聞いたのは、多分、さっきの牙が来た日だろ?
風俗街へはお前を買った店に行ったんだ。体に埋め込まれたGPSを取ってあげたくて……
匂いは多分、試着の時だな……」
そう言ってパンフレットを渡される。
表紙には白い教会とWeddingの文字。
…………これって。
「他の日はここ。色々、打ち合わせに行ってたんだ。お前をビックリさせたくて……
ワザと夜に行ってたのに。
俺さ……親父に毎日のように『見合いしろ。早く跡継ぎを作れ。』って言われてて、番候補を買いに行ったのは半分ヤケだったんだ。
ユイト。お前に初めて会った時、運命を感じた……って言ったら信じる……?
連れて帰ってきてからも素直で可愛くて正直、お前にメロメロだった。」
小さな箱を手渡される。
「サプライズにしたかったのに……」
光牙は箱を開けて、俺の前で膝まづいた。
左手の薬指にはめられたのはキラキラ輝く指輪。
「…………俺もお前が好き。俺の心はとっくにお前だけのもの。」
光牙の言葉が胸に響く。
「ごめん。嫉妬してばかりで……
お前の事になると感情がセーブ出来ない。」
好き……?嫉妬?
光牙も同じ気持ち……?
待って……
心臓がドキドキし過ぎて止まりそう。
「プロポーズの時に伝えるつもりだったんだ。傷つけて……不安にさせてごめん……」
繋がれた手から温かさが伝わる。
光牙は優しいキスをくれてから、俺の目を見つめた。
「ユイト。俺の番になって。
誰よりも幸せにする。誓うよ……」
(END)
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