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次の日の朝、早起きして、眠る光牙を置いて厨房へ向かった。
ごめんね。光牙……
俺、どうしてもグラタンを作ってあげたいんだ。
『美味しい。ありがとう。』
きっと光牙は笑ってくれる……
コッソリ作り、そっと部屋に運び入れる。ウキウキとテーブルセッティング。光牙を起こしにいったら、パソコンの前に座ってた。
「光牙?起きてたんだ!仕事は一度休憩にして……」
「お前、厨房に行ったんだな。」
冷たい声にドキッとする。
「あ、それは……」
「俺との約束を破って?」
「理由があって……」
「…………ふん。どうでもいい。
俺は出かけてくる。」
「ま、待って。朝食を……」
「いらない。お前、一人で食べろ。」
「光牙……」
バタン。光牙は部屋を出て行ってしまった。
食べてもらえなかったグラタンはあっと言う間に冷めてしまった。
休みの日はいつも一緒だったのに。
どこに行ったんだろう……
不安な気持ちで窓の外を眺める。
夜になっても光牙はなかなか帰ってこなかった。
ブォン……
車の音。光牙だ……!
慌てて玄関に向かう。
「お帰りなさ……」
目が合って、ドキッとする。
冷めた目。光牙は怒ったままだった。
不意に感じた女の人の匂い。
噓……
どうして……
誰か、違う人を抱いてきたの……?
「こ、光牙……今日はどこに。」
「お前には関係ない。」
目を逸らされた。
光牙の言葉が胸に刺さる。
「……あ……そ、そうだよね。ごめん……俺……」
言葉が続かなくて下を見る。
ポタ……
頬を涙が伝った。
泣いてるとこ……見られたくない……
「ごめ……ん……」
顔は上げず、言い残して背を向ける。
トボトボと部屋へ戻った。クローゼットの扉を開けしゃがみ込む。
…………俺のお気に入りの場所。
ここで二人で耳を消す練習をしたっけ。俺が上手に出来たら光牙も嬉しそうに笑ってて……
キスした事もあった……
ボロボロ……
目に涙が溢れる。
あんなに怒るなんて……
俺、喜んで欲しかっただけなのに……
ちゃんと理由を話せば良かった……
悲しくて泣いたのなんて何年ぶりだろう。
母さんに会えなくても……
獣人に虐められても……
人の輪に入れなくても……
一人ぼっちが寂しくても……
泣いた事なかったのに……
涙が床を濡らした。
…………俺、光牙に嫌われたくない。
ガチャ。扉の開く音。
ドッ……
心臓が跳ねる。
…………光牙が帰ってきた。
ちゃんと謝らなくちゃ……
でも、勇気が出なくてそのまま隠れてた。
光牙は真っ直ぐ、クローゼットの前に来た。
カチャ。
躊躇いなく開けられ、ビクッと体が震える。
慌ててゴシゴシと涙を拭った。
「ユイト……」
声をかけられて、顔を上げる。
ボロ……
我慢出来ず涙が溢れた。また慌てて拭う。
「…………キツイ言い方してごめん。」
目が合ったら、なんだか泣けてきて、せっかく拭った目にまた涙がたまる。
ギュ……
光牙は俺をそっと抱きしめた。
「厨房の奴から聞いた。お前、俺の好きなグラタン作る為に早起きして張り切ってたって。
俺がテレビ見てた時に言ったからか……?
ごめん。お前の気持ちも考えないで酷い事を言って……まだ残ってる?一緒に食べよう……」
良かった……
いつもの光牙だ……
ホッとして余計涙が止まらなくなり、泣きやまない俺を光牙はずっと抱きしめてくれた。
悲しくても嬉しくても安心しても涙が出る。
『好き』って切ない…………
光牙は俺の事、どう思ってるんだろう……
本当にヤキモチ?
ただの獣人の独占欲?
自分は子供を孕む為の道具……
なのに。
光牙と一緒にいると幸せで満たされるんだ。大事にされて芽生えてしまった気持ちはゆっくりと大きくなる。
………………光牙が好き。
この気持ち、どうすればいい……?
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