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第10話

 浅いまどろみの中、記憶と夢がごちゃ混ぜになって身体を包んでいた。  限界だと言っていた敦人を口でいかせて、それから敦人の太腿を使って自分も満足したのだった。いや、素股をしたのは自分だったっけ? お互い我慢しなくてもいいとわかった瞬間、気持ちが満たされて……。 (すごい幸福感……)  だから遥希は自分に、これは夢だからと言い聞かせながらゆっくりと意識を浮上させたのだ。  脚を動かすと乾いた精液が皮膚を引っ張り、ああ、やっぱり夢じゃなかったのかと遥希は人ごとのように考えた。  背中にあたる感覚が家のベッドと違う。狭い布団の端っこで腕をはみ出させながら寝ていた。寝相が悪くて掛け布団を引っ張ってる敦人をしばらく見ていると、目を覚まして薄目を開けた。 「おはよう。」 「ん、起きとったんか。」  鷹揚にあくびしながら敦人がしっかりと目を開けた。やけに白っぽい朝の光の中で同じ布団に入っていると眩しさに戸惑ってしまう。  「あー」とも「うー」ともつかない声を出して眼を(しばた)かせていた敦人が、腕を伸ばしてスマホを取った。難しい顔をしながら画面に指を走らせて唸っている。 「今日用事あった? 僕そろそろ帰るわ。」  布団の外に失敗作みたいに丸められた下着を見つけ、遥希は足指で引っ掛けて引き寄せた。 「あかん、一緒にドラッグストアいこ。速攻行ってこよ。後で俺が雑炊作るから、一緒にくおう。」 「朝一で何買うの?腹減るから行く前に食べようよ。」 「ローションとゴム、なかったら見つかるまではしごする。見つかるまで帰りませーん。」 「なんだよそのやる気。」  あきれ顔した遥希の頬が徐々に赤くなってゆくのを見て敦人は楽しそうに笑った。 「分かってるくせに。俺大人の階段上りたいんやけど。ハルと一緒に。」  無邪気に言ってのける敦人の笑顔を目に焼き付けて遥希は立ち上がる。 「シャワー借りる。」 「おう。」  敦人は鼻歌を歌いながら脱ぎ散らかした二人分のトレーナーを布団の下から引き出している。ああ、この歌なんだっけ。 「なあ。」 バスルームの扉を開けたまま遥希が顔を出す。 「何?」 「僕もやり方がよくわ分からんから、調べといて。ほいでさ、まあ、どっちでもいいけど両方試してみたくはある。」  それだけ言って急いでドアを閉めた。トレーナーから頭を出した敦人が、扉の向こうでどんな表情をしているのか、見なくたって簡単に想像できる。  いつも通り笑ってるはずだ。  中学の時も、高校の時も、サッカー見に行った時も、球技大会もテスト勉強した時も。敦人は遥希に笑いかけてくれていた。  その笑顔を思い浮かべて遥希は「敵わないな。」と小さな声で言った。 完

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