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第82話 牛丼よりも愛を大盛、お願いします(6)
予想通り、あんまり人のいない学食で、俺たちは奥の方へと向かう。
「コーヒーでいいか?」
「あ、うん」
席だけおさえると天童を座らせて、俺は自動販売機で缶コーヒーを買ってきた。
「ん」
「サンキュ」
しばらく俺たちは無言で缶コーヒーを飲んでいたけど、天童のほうから、ポツリポツリと話し始めた。
天童曰く。
なんと、海老沢と天童、二人で暮らし始めていたらしい。正確には、海老沢が転がり込んできたとか。海老沢のずうずうしさを思い浮かべて、それを断り切れなかった天童が哀れになる。
ただ、それだけではなく。
海老沢が天童に手を出していたというのだ!
「な、ま、マジか」
「……うん」
「え、えと、て、天童的には……嫌じゃなかったのか?」
「は、初めはちょっと……思うところはあったけど……」
「今は?」
「う、うん」
ポッと頬を染める天童……マジかぁ……。
しかし、俺同様、恋愛の免疫のない天童が、リア充の海老沢に食われるとか……ていうか、あいつ、男もイケるのかよ。どっちにもモテそうなだけに、イラっとする俺。
昨夜はサークルの飲み会に行くからと言っていたけど、結局、海老沢は帰ってこなかったとか。それなのに。今朝は元カノと一緒に登場とか、ありえないだろ。それって、彼女と夜を過ごしたってことじゃないかって、天童じゃなくたって想像する。俺ですら、ヨリを戻したって思ったんだ。
海老沢も、天童が同じ講義出てるの、知ってるはずなのに。
「……やっぱり、女の子のほうがいいのかな」
ポツリと寂し気に呟く天童の言葉に、俺の胸がズキンと痛む。俺も同じことを、考えたことがあったから。
「俺、いいように使われてただけなのかなぁ」
「天童……」
椅子の背にもたれながら、大きく溜息をつく天童。
一方で、俺の脳裏には、おっさんの姿が目に浮かんだ。
おっさんは海老沢みたいにチャラくはない。むしろ、組で上に立ってるんだろうし、責任感もありそう。だから、俺にしたキスだって、きっと、遊び半分じゃない……と、思いたい。
ついつい、自分のことと重なって、俺のほうまで泣きそうな気分になる。
「ごめんな、高橋。こんな話……キモイだろ」
「そ、そんなことない。そんなことないぞ」
「……高橋」
ああ、ボロボロと泣き始めてしまった天童。今度こそ俺の差し出したハンカチを手にして、グズグズと涙を拭う。だけど、なかなか涙が止まらない。
ああ、もうハンカチがびしょ濡れだ。
泣きたいときは、思い切り泣いた方がいい。俺は天童が泣き止むまで、ただその様子を見つめていようと思ってたのに、突然、背後に誰かが立った気がした。それも、なんだか嫌~な気配。
「……なに、テンちゃん泣かしてるの」
「うえっ!?」
急に声をかけられて振り向くと、ゴゴゴーッという音でもしそうなくらい不機嫌な顔の海老沢が、腕を組んで見下ろしていた。
……えぇぇぇ、悪いの、俺?
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