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第2話

新宿のオフィスビルやホテルの建ち並ぶ大通りを少し入った場所に、どうにも周囲の近代的な景色とは不釣り合いな小さな店があった。 外観はというと茶色い壁は風雨にさらされて若干薄汚れ、入り口も手動のガラスの引き戸になっており、掃除はしてあっても古くささは隠せていない。 看板も今時珍しく職人が手描きしたであろう『おべんとう月ヶ瀬』の文字と竹皮の上からおにぎりが一個ころりんと飛び出したイラストが何ともいい味を醸し出している。 ここは見た目からも分かる様に、昭和から細々と続いている地元の人と、近くの会社に勤めるサラリーマンから人気の弁当屋だ。 さっそく開店と同時に弁当を求めて、この店の味を知っているサラリーマンがやって来た。 「はい、幕の内弁当ですね。五百円になります」 ここのひとり息子である月ヶ瀬(つきがせ) 祐羽(ゆうは)は、笑顔でおつりと、それから出来上がった弁当を袋に入れて客に笑顔で手渡した。 「ありがとうございました」 すると昼時の為、客が次々とやって来る。 「いらっしゃいませ!」 目を白黒させながら接客を頑張る祐羽は、進学を勧める両親の反対を押し切り、高校卒業と同時に弁当屋の手伝いに入った。 小さな頃から祖父母や両親が仲良く切り盛りするこの弁当屋が大好きで、自分も一緒に店に立ちたいと思ったからだ。 そんなわけで看板娘ならぬ看板息子として店頭に立って接客を始めた祐羽だったが、ここ最近はあまりの忙しさと梅雨の蒸し暑さにバテ気味だった。

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