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第31話

そうして薬を飲み終えひと息つく祐羽を男は何を考えているのか分からない無表情で見つめてくるだけだ。 それには祐羽も思わず小さくなり、グラスを両手で握りしめながら視線を外した。 ――この人、何を考えてるのか分からないし、それに何でずっと見てくるの?僕の顔、穴が空いちゃうよ。 αはΩを上から目線で値踏みしてくる者が多いが、この男からは最初からそれを全く感じていない。 だからといって見つめ続けられる事に耐性が無い祐羽にとって、αから間近に注がれる視線は心臓に悪い。 即効性の緊急抑制剤は短時間のみの有効とはいえ、本能的にαを求めるあの感覚が今はもう無いので発情の心配は無いだろうが、見つめられているせいで顔の火照りがまた少し増してきた様に感じる。 男の視線に耐えられなくなった祐羽はグラスを置くと「お薬、ありがとうございました」と頭を下げた。 そして早々に退散しようとベッドから降りたが、発情の関係か足に力が入らずその場でフラッと崩れ落ちそうになる。 「大丈夫か?」 「すみません。ありがとうございます、大丈夫です」 床に倒れる寸前で男が素早く助けてくれたお陰で、祐羽は痛い思いをせずに済み礼を伝えた。 しかし、胸に抱き止めれた事で男の体温を感じて大きく胸が高鳴る。 せっかく収まった火照りが再び体の奥から湧いてきそうで怖くなり離れようとするが、男にしっかりと抱かれていて、それは無理だった。 「どうした。どこへ行く?」 「えっ、いえ、その…か、顔!」 祐羽は得体の知れない感覚への戸惑いで『家に帰る』という一言が上手く出てこない。

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