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第30話

この何と表現していいのか分からない感覚は初めての事で、戸惑いは収まりそうもなく落ち着かない。 ――僕さっきから、ちょっと変だ。なんでこんなにドキドキして苦しいんだろう。 今までたくさんのαを見てきた。 それこそ物好きで、実家の安い弁当を時々買いに来てくれるαを何人も知っている。 彼等も美形で体格も良くいつもΩの祐羽にも優しく声を掛けてくれる。 けれど、この男ほど魅力的でどうしようもなく惹かれるαに祐羽は今まで出会った事が無い。 ――確かに今まで会った人の中で一番物カッコいいけど、それだけじゃなくて、何だろう。分かんないけど、体の奥とか頭の中とか心臓とかグチャグチャになる…! 妙に高鳴り続ける心臓に手を当てて、何故だうかと小さく唸りながら自問自答する。 そうして眉を寄せ首を傾げていれば「おい。早く飲め」とよく通る声で男に、祐羽は思考の海から一瞬で戻った。 「あっ!すみませんっ、の、飲みます!」 男からの鋭い声に反応した祐羽は、ぼんやりして気怠い体に渇を入れベッドの上に慌てて正座すると、サイドテーブルから用意して貰ったグラスと薬を手に取った。 「ではっ、いただきまする!」と、混乱のせいでおかしな礼を述べつつ祐羽が水と薬を掲げ頭を軽く下げると、それに対して何か言いたそうに口を開きかけた。 しかし、男は複雑な顔のまま『いいから飲め』と視線だけで促してきた。 「はいっ!」 祐羽はそんな男に見つめられる中、元気に返事をすると、緊張と羞恥から微かに震える手で薬を口へ放り胃へと流し込んだ。

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