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第29話

うっとりしかけたものの我に返った祐羽は、自分だけが気持ちよくなっている事に気がついた。 交尾に至らなかったとはいえ自分が薬を飲み忘れたうっかりで相手に迷惑を掛けた上、何も返さないのはいけないのではないだろうかという考えにふと思う。 「あっ、あの…。僕は、どうしたらいいですか?」 羞恥心から顔を真っ赤にして訊ねると、男はハッと目を見開くと急いで頭から手を離してしまった。 ――あ。もう終わりかぁ…。もっとナデナデして欲しかったかも。 引っ込められた手を寂しく感じてしまう自分を不思議に思いつつ、男を見つめ答えを待つ。 しかし、相手は少し気まずい様子で咳払いを小さくひとつすると「お前はいい」とあっさりと断られてしまった。 「それよりも、これを飲め」 男はそう言うと、もう片方の手に持っていた水の入ったグラスと抑制剤をサイドテーブルに置き、それから壁際まで離れて行った。 どうやら念のため距離を取っているらしいが、もう既に祐羽は発情しておらず男もそれは分かっているはずだが、用心深い性格らしい。 ――今頃になって離れても関係ないと思うんだけどな…別に近くに居てくれてもいいのに。それに抑制剤、もう飲まなくても大丈夫だよ。 残念な気持ちがムクムク湧いてきた祐羽は、少し唇を尖らせてガッカリした。 それからしょんぼり顔のまま男に視線を向けた。 壁に背中を預け腕を組んだまるでモデルの様な男と視線が絡み、するとなぜか心臓がおかしな動きをしてしまう。 体の火照りは収まったのに頬の熱さはなかなか引かない。

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