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魔女と再会しました

ともかくこんな姿では、知り合いに見られたくないから引きこもるしかない。  両親はポジティブで 「長男がこれじゃ婿養子とらないといけないわね」 「こんなに容姿がいいんだ。良い縁があるだろう」と相談していた。  順応しすぎだろ。  セシルはセシルで、 「お姉ちゃんかわいいー!私じゃ胸が足りなかったドレスも着られるんじゃない?着てみて!」 「誰がお姉ちゃんだ、誰が。ちょ、そんなとこ触るな。お婿さんにいけなくなる!」 「きゃーやっぱり私だと胸が足りなくて着られなかったドレス似合うー!一緒にお出かけしたい!」 「……それは勘弁してください」 「姉妹がほしかったの!メイクもしてみたぁいー!アナベル、一式持ってきて」 「かしこまりました」 「勝手にして……」 「……つっかれた……」  小一時間ほどひとしきり着せ替え人形にされ、メイクも施され疲れきったオレは自室のベッドに横になった。  ふと空気が重たくなる。  ……なんだこれ。  体に不具合があるわけじゃなくて体全体に見えない重いものにのしかかられて動かせない感じ。 「久し振りね。気に入ってもらえた?」  ふっと顔の横に現れたのは昨日森で会った少女だった。  空中なのに座り心地のよいソファに座ってるかのように悠然と足を組み、頬杖をついている。 「可愛いドレス着てメイクして楽しんでるみたいね?」 「おま……四大魔女。ほっとけ。妹に遊ばれてるだけだから」 「人間からそう呼ばれることもあるわね」  今日はなんだか機嫌が良さそうだ。 「なんでこんなこと……」 「あなた転生者でしょ?」  ずばり言い当てられる。  四大魔女ともなると少し会っただけで容易に分かるのか。だが、それがなんなんだ。 「私もあなたの前世の世界に行ったことあるのよ。 こっちにはないものがたくさんあったけど、特に乙女ゲームが好きだったわぁ」 「はあ。そうですか……」  魔女の趣味は知らんが。  乙女ゲームなどごく一般的な高校生男子のオレはやったことないからなんとなくしか知らん。 「私は退屈なの。  でね。あなたには乙女ゲームの主人公になってほしいの。ゲームの世界を作った訳じゃないけど、その容姿ならいくらでもそれっぽいことになるでしょ」 「はい?」 「転生者なら知ってるでしょ?乙女ゲーム」  いやいやいや。 「あのね、乙女ゲームって女の子しかしないから。オレはやり方知らん」  詳しく知らないけど、要するにギャルゲーの女性版だろ?プレイする男はなかなかいないだろう。  オレオタクじゃなかったからギャルゲーもしたことないけど。 「だから元に戻してくれ」と迫るが、四大魔女はうん、と言ってくれない。 「せっかくだからお願い。夜は男に戻るし」  正直嫌だ。男と恋愛なんかしたくない。  だがここで機嫌を損ねたら、十中八九死ぬ。  オレは死か男に好かれるかを天秤にかけた。 「や、やります……」 「やった。交渉成立ね」  手を叩いて喜ぶ魔女はとても可愛い。キリッとした美人でスタイルがよくて、見た目なら本当にタイプなんだけど。てかオレは美人系でも可愛い系でもいいからストライクゾーンが広いだけだけど。  交渉っつーかおどしね。 「あ、これ今度お城である舞踏会の招待状」  四大魔女が王家の封蝋いりの封筒を投げてよこす。  セシルにも招待状来てた気がする。  行け、ということなのだろう。 「自信持っていいわよ。あなた最高に可愛いから」  そんな自信はいらん。  期限よさそうなので、ついでにオレは聞いてみた。 「あんた誰なの?」  四大魔女は四大魔女なんだろうけど、そのうちの誰なんだろう。  まぁ分かったからと言って、だからどう、ってわけではないが。 「人間には歓喜の魔女、って呼ばれてるわね。またねレディ」  美しい微笑みを残し、魔女は消えた。

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