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第4話

「……シャル、なにしてんだ?」 「お前が覗かれるのを不安がっていたから、覗けないように目を塞いでいるんだ」 「本気でお前は真面目だなちくしょうそのポーズは可愛い、じゃねぇ俺はもう出たからやめろ」 「? わかった」  身支度を整えたアゼルにもごもご告げられ、俺は塞いでいた目を開けて両手を下ろす。  ベッドに腰掛ける俺を見下ろすアゼルはいつもの衣装で、ふわりといい匂いがした。  魔法で乾かしたのだろう洗いたての髪はさっぱりして触り心地が良さそうだ。  見ているだけで頬が緩む。  ふふふ、どうだ?  俺のお嫁さんはとても素敵だろう? 「今日もかっこいいぞ」 「ふぐっ! めっめっ飯食うぞっ早く行かねぇとさぁさっさと席につけ……!」 「あはは、そうだな。お腹が減ったな」 「ぁぁぅぅ……っ好きだぁぁぁ……っ」  好きだな、と思ったのが顔に出ていたのか褒めるとアゼルは赤くなってさっさとテーブルに向かってしまった。  お腹が減っていたのか。  待ちきれないなんて可愛いじゃないか。  しかし先を行くアゼルがなにやら呟いているが、よく聞こえないな。  テーブルの上には、素晴らしい朝ごはんが並んでいた。  魔王城の厨房シェフ、リザードマンのラグランさん達の自慢の料理だ。  目を引く鮮やかな黄色のオムレツに、数種類のソーセージ。  マッシュポテトが添えられたプレート。コンソメの薫る暖かなスープ。  色とりどりの温野菜のサラダにはカリカリに焼いたベーコンがふりかけてある。  焼きたてのバターロールと毎日用意されている俺の好物、カットされた桃もある。  魔族はよく食べるので質より量になり、あまり料理技術は発達していない。  けれど素材の味を活かしたラグランさん達の料理は本当に美味しいのだ。  俺の分を一人前とするなら、アゼルの前には三倍はあった。  アゼルが大食いなのではなく、これで普通なんだそうだ。  対して俺は八年の幽閉生活が一日二食だったので胃が縮んで、普通よりは少食だ。  それでも少なすぎるわけではないぞ?  魔界に来てから食も少しは太くなったな。  良いように言うと燃費が良くて省エネなんだ。  そんな二人でテーブルを囲んで、一緒に食事をする。  俺達の毎日はそうやって始まるのだ。  二人で話したり笑ったりしながら食事をするために、この部屋のテーブルが不釣り合いに小さいのだからな。  一緒に住むと決めた時、アゼルが城に出入りする商人にこっそり頼んで買い付けたんだ。  本棚の本だって俺とお前の両方の趣味が混じったもので、昼間は仕事で共にいないのにいつの間に俺の好きな本を知ったのやら。  こそこそバレていないつもりで思いついたようになにかと新調しているのは、俺にはお見通しなのだ。

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