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第8話

 謁見を終えたアゼルは宣言通り、この後の会合も、いつものような書類仕事も、視察も、なにもないようだ。  フリーなアゼルは当然のように背中に張り付いて、俺を抱きしめながら廊下を歩く。  そんな様子も二ヶ月もすれば城の従魔達や住人は慣れたもので、誰も不審には思わないし、なんなら道を開けてくれる。  王様だからな。  面と向かって物申すと、即戦闘BGMが流れ出すのが魔族である。  俺もそんな周囲の対応には慣れたもので、特に会話を交わすこともなく、当然のように甘受している。  自然に接してもらうのが一番。  アゼルを張り付け歩く今は、専用厨房に行く前にリューオに絵本を返しに行くところだ。 「グルルルル……」  そしてそれに対して、アゼルは非常に不服そうである。唸っている。  唇を尖らせジト目で睨み、俺に絵本を燃やせと言ってきたぐらいには、リューオに会いに行くのが気に食わないようだ。  アゼル的にはリューオは俺を拐った前科があるので、不問にする宣言をしても、内心まだ根に持っているらしい。  リューオはリューオで、好きな人の好きな人がアゼルだったのをかなり恨めしがっている。  俺から見ると、アゼルとリューオは不仲に見えて、気性が似ているんだがな……。  憎い相手には、すぐにデッドオアアライブを決めたがる。  この二人は怒らせると頑なに一発入れるか、殺しに来るだろう。  本人達も負けず嫌いで本能的な部分は気が合うと思っている。  その自覚があると、より腹立たしいらしい。  うーん、難儀な男達だ。  でもまぁ、性格は違うな。  アゼルはオラオラできないのだ。  ツンツン。  リューオはツンツンしない。  オラオラはする。  ようは壁ドンして顎クイからの今夜は帰さない、が、リューオはできるがアゼルはできない。  丁度よく面白い話があるから、暇つぶしにでも聞いてほしい。  アゼルは俺が帰ろうとすると、ツーンとそっぽを向く。 『別に帰ってもいいんだけど、まぁいたいならいてくれてもいいんだぜ? 俺のベッドはふかふかだし、明日は朝から美味いもんを出してやるし、きっとそこそこハッピーだ』  そしてそんなことを言い、どうにか一緒にいようとするんだな。  対してリューオは現在片思い中の獣耳美少年ユリスに、壁ドンどころかベッドにドン。  顎クイするより、直接ボディタッチをかましてから。 『一晩中可愛がってやるよ』  なんて、情熱的に口説く。  彼はツンツンせずに、ダイレクトなメイクラブを求めていくのだ。  ちなみにお察しの通り、この二つの事例。  実際あったことである。  どうだ? 面白かったか? 暇が潰れたら嬉しいな。  俺とユリスは友人なので、よく愚痴を零される。ユリスは股間を蹴り飛ばしてやったらしい。  当時は同衾してなかった俺だが、こちらはもちろん、その日は笑ってお泊まり会をしたとも。  ふふふ。  壁ドンと顎クイもユリスに教えてもらった。いつかアゼルに実践するつもりだ。  なんでも好感度がアップして、好きな子をオトせる必殺技らしい。かっこいいな。  閑話休題。  そんなわけで長くなったがアゼルは反りの合わないリューオを訪ねることを嫌がって、俺の背中でゴネているのである。 「なぁシャル、それやっぱり返すのかよ。燃やそうぜ、なぁ」 「それは駄目だな。せっかくリューオが仲間に手紙を出して、村時代の荷物を送ってもらったのだ。思い出の品かもしれないだろう?」 「思い出の品人に貸さねぇよ、大丈夫だろ。じゃあそこの窓から落とそうぜ? あのボンクラ勇者なんか構いやしねぇんだ、俺のほうが強いしな」 「落としたら拾いに行くのが大変だ。それにリューオは強いぞ、剣技のみでならいい勝負じゃないか。バルバルを封印したら互角だぞ」 「ぅぐっ、ふ、フン! 剣技だって俺のほうが強いぜ! 俺、本来魔法使うしな。第二形態の心臓突き刺した回数は、シャルのほうが上だぜ」 「んん、あの時は本当に勝てる気がしなかったが……」

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