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第12話

 ♢  完成したお菓子の配達をカプバット達に任せた後。  俺とアゼルは城の広大な庭を見下ろせる石畳のテラスで、自分達の分のタルトをご賞味することにした。  もうとっくにお昼の時間だったので、ランチも一緒に取ることにしたんだ。  今日のお昼は、ミートソースのパスタ。  どうやらパスタのような加工食品は便利なので普及しているみたいだな。  実用的なものが重視されるあたり、実力主義の魔界らしい基準だ。  食事時はいつも、アゼルと他愛ない話をしている。  飽きることもない日常の一コマ。  とても楽しいし、心が満たされる。  いただきますをしてから読んだ本の内容を話したり、何気なく思いついたことを言ったり。  これは美味しいやら前食べたあれがまた食べたいなど、話題は日々変わるが楽しいことに変わりはない。  特別なことはなにもないけれど、大切なことだ。 「白シャツの俺と黒シャツの俺か。ファッションセンスがあまりないから、大体そうなるんだ。シンプルなのが好きだからな……アゼルはどっちがマシだと思う?」 「お前は俺に選ばせるのが目的なんだろ? じゃあ選べる問題にしやがれ。究極の選択を持ちかけてくんな」 「ん? 白か黒かと言う選べる選択肢じゃないか?」  服の話題になって自分の変化のないファッションの話をしたが、全くわかっていない、という目で見られた。  アゼルは俺のシャツを重大な問題だと思っているんだろうか。  よくわからないけれど、どっちも好きになってくれるならかまわないか。  ──あれこれ互いが思うようにのんびりと話すランチタイム。  俺の日常は、いつもこうして穏やかに過ぎていく。  が。 『イイなァ、俺も食いてェ』  テラスの前に突然ふわりと降り立った巨大な銀色の竜。  ズズン、と地面が揺れる。 「仕事しろガードヴァイン」 「ガド、サボりか」  魔物の言葉はわからないが、アゼルは呆れた顔でその犯人を睨んだ。  この銀竜の名はガードヴァイン・シルヴァリウス。愛称はガド。  猛毒の竜ヒュドルドであるガドは中身はマイペースな自由人だが、立派な魔界軍の空軍長である。 『サボりじゃねェぜ。空戦演習で部下共をひねって遊んだら、あいつらヘバッちまってなぁ。今は竜のくせに地面を這ってんだ。クククッ、最高だろォ?』 「あいつ等、訓練足りてねぇんじゃねえのか」  アゼルと話しながら竜が光ると、見る間に人型に収縮した。 「今度魔王が躾けてやってくれよ〜」  見慣れたガドの竜人スタイルが、トンとテラスに降り立つ。  銀色の短髪に映える山羊のような角と、黒い軍服に包まれた長身の身体から伸びる、長い竜の尾。  アメジスト色の瞳をニンマリとさせながら、ガドはよいしょとしゃがんでテーブルに腕をついた。 「シャァル、なでてくれよ」 「ん? いいぞ、お疲れ様」 「うぁ、うぐぐぐ……っ!」  頭をなでられるのが好きなガドは、いつもこうして強請ってくるのだ。  よしよしと頭をなでてあげると、アゼルから悩ましげな声が聞こえた。  なにか葛藤しているようだが。  ポンポンとガドの頭を優しくなでてからアゼルを見つめると、何事もなかったかのようにパスタを食べ始める。  真実は他の男の頭をなでるなと怒るべきか、羨ましいから俺もなでろと強請るべきか悩んでいただけなのだが、俺は気が付かず首を傾げただけだった。  しかしそれに気づいていたガドは、素知らぬ顔をするアゼルの肩にガシッと腕を回して、なぁなぁと面白そうに笑う。 「魔王〜嫉妬深い男は嫌われるぜ? なにも股間なでさせてるわけじゃねえんだしな?」 「それさせたらお前の鱗全部剥いで、口からケツ串刺しにすんぞ。それに別に、頭なでるくらいっ、か、構わねぇぜ。俺は嫉妬深くねぇよ、心の広い男だ」

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