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第15話
二人して頬を染めてドキドキしてみるが、恋愛経験値の低い新婚二人。
改まってイチャイチャするとなっても、すぐにはやることが思いつかないのであった。
「巷で流行りの肩ズンなんだが、これからどうすればいいんだ? トキメクか?」
「俺もわかんねぇ。でも俺はこのまま晩飯まで余裕でいれるし、トキメキが止まらねぇ」
「俺も十分満足だが……これはイチャイチャのイの部分じゃないか?」
「うぐ……よし、マルガンに貰った雑誌を見るか」
お互い頭をくっつけたまま、せっかくの休みを二人きりで存分に謳歌すべくイチャイチャを考える。
アゼルは指をパチンと鳴らして、召喚魔法で雑誌を一冊召喚した。
雑誌と言っても現代のようなカラフルなものではなく、薄い本のようなものだ。
製本も簡素で文字と挿絵が書いてある。
見覚えがあるな……これはユリスの部屋にあった雑誌だ。
マルガンと言う人とユリスは同じ雑誌をいつも買っているのか。
真剣な表情でペラペラ捲る雑誌を覗き込む。
「なになに……〝夜とはちがう自然なスキンシップ。お互いの体をマッサージをし合って触れ合ってみる〟」
「マッサージはちょっと困るな……背中だけはやめてほしい……」
「あぁ……シャルの性感帯だもんな。胸もかなり開発したと思うぜ」
「胸筋だな」
お察しした顔をされてコクンと頷く。
俺は肩甲骨の谷間をグリグリされると気持ちがいいんだが、それを見つけられてから執拗に背中を触られ続けて、感度が上がってしまったんだ。
なので指圧されたら困る。
今や谷間だけでなく背骨の上のラインから腰の凹凸まで、弱点は多岐にわたるからな。
アゼルはやり始めたらなんでもしつこいんだ。
〝街で聞きました! 恋人としたいことは?〟と書かれた見出しのページに目を滑らせ、他の方法を探す。
「〝膝枕をして頭なでなで〟。これは今朝やったな」
「べ、別に二回やってもいいんじゃねぇか……?」
「でもまた床に落ちたらいけない。〝後ろから抱きしめて甘える〟。これはいつもされているな」
「ぐぁぁ……ッ今朝の俺ェ……なぜ落ちた……ッ!」
アゼルは膝枕の部分を凝視してからなんだか震え始めて、俺の頭にも震えが伝わってきた。どうしたんだ。
ぺらりとページを捲ると、次の見出しは好感度アップ胸キュン特集だった。
ユリスに聞いた壁ドンや顎クイが乗っている。
「よしアゼル、せっかくお前といるんだ。よそ見されないように好感度をあげよう」
「まずよそ見しねぇよ」
「だからといってお前の愛に甘えて好かれる努力を怠る俺じゃないぞ」
「んぅ、」
好かれているのがわかるからこそ、好きでい続けてもらえるように日々頑張るのが対等な愛ではないか。
頭を上げて、真面目な顔でよそ見はしないというアゼルの顎を頬ごと掴み、くいっとしてみる。
一回のくいじゃよくわからないから、何度か四方八方くいくいとアゼルの端正な顔を動かしてみるが、手応えはない。
「どうだ? 俺のこと好きになってくれたか?」
「|元々好きだ《もひょもひょひゅひひゃ》」
「んむ。|俺も好きだ《おりぇもひゅひあ》」
アゼルをじっと見つめてくいくいとしていると、仕返しに顎を頬ごとガシッと掴まれ、クイッとされた。
けれど好感度は上がらなかった。
よく考えたら、俺の中のアゼルの好感度はカンストしている。
なんということだ。
そんな簡単なことに気が付かなかった。
相思相愛だと効果なし。
この分じゃ、他の方法も楽しいだけであまり意味はなさそうだ。
「ぷはっ。んん……愛し合っていると意味がないのか。指チューとか壁ギュウとかがあるらしいが、やめておこうか?」
「…………」
「やろうか」
無言でやりたいアピールをするアゼルの為に、結局全部やることにした俺である。
なんだかんだ、こう言うことが好きなんだな。
──ちなみに最終的には部屋の角を使って両手足でドンする〝蝉ドン〟なるものを実践することになったが……。
俺が角で待ち構えて「よし! こい!」と言っているところに、アゼルが助走をつけて「いくぜ!」とノリノリでジャンプした瞬間。
仕事の話をしにきたライゼンさんが部屋に入ってきて、決定的瞬間を目撃される事案が発生した。
阿鼻叫喚のヒトコマだ。
当然今後蝉ドンは封印することになった。
……恥ずかしすぎる!
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