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第20話
都合が悪くなると口数が減るアゼルを見つめる。
埒が明かないので、グッと顎をすくい取って無理矢理に目を合わさせた。
「ぅひぇ……そりゃ、もちろんっす、好き、だぜ……?」
「声が小さい!」
「あぅっ! だっだだ、大好き、だっ!」
「チッ、俺のほうがまだまだ好きだ。魔王のくせにヘッピリ腰め。それがお前の全力か? 片腹痛いぞ、こわっぱめ」
「こ……ッ!? だっ、大ッ、大大大大ッ! 大ッ好きですぅぅぅううぅぅぅッッ!!」
ガタン! とヘッピリ魔王全力の大声の衝撃で、研究所のなにかが落ちた。
知ったこっちゃない。当然後で片付けてやる。
初めてそれらしい雰囲気でもないのに、俺に向かい人前でハッキリ愛の告白をさせられたアゼルが、顔を真っ赤にしてヤケクソに叫ぶ。
あまりに必死なもので俺は仕方なく掴んでいた顎を離してやった。
そんな公開告白の背後で、腹を抱えて床を殴りつつ爆笑するリューオ。
ユリスは両手で顔を覆って永遠のアイドル・魔王様の羞恥プレイを嘆いている。
ふん馬鹿め。笑うのも嘆くのも早い。
なにも終わってないぞ? まだまだ本題はこれからだ。
アゼルは顎を離してもらえてすぐにバタン! と羞恥のキャパオーバーに正座したまま、うつ伏せに倒れた。
照れ屋で純情なアゼルの前にしゃがみこみ、頭をツンツンとつつく。
ふふん、ちょっと気分がいい。
「アゼル、アゼル、アーゼル」
「ふっ、ぅ……はぁい……」
「どのくらい好き?」
「ぉあぁ……!?」
先ほどよりも穏やかな表情で尋ねる。
イコールで人前の羞恥プレイネクストステージご招待。
招待状を察しガバッと起き上がったアゼルは、それはそれは情けないへちゃむくれた顔で、縋るように俺を見つめた。
「い、いっぱい……」
「具体的に」
「こっこのくらいだ!」
震えた声で質問に答え、座ったまま両腕をめいいっぱい大きく広げて、必死に好きの大きさをアピールする。
俺が座れと言ったから移動できないアゼルだが、腕が広がる限りの限界を捧げてくれた。
見れば見るほど泣きそうだ。
そして爆発寸前ぐらい真っ赤だ。煙が出そう。
うん、そこがお前の限界だろうな。
ゴム人間でもないと腕は伸びない。
まだ足りないよ。
しゃがみこんだまま膝を腕で抱えて、小首を傾げる。
柔らかな頬が硬い膝に当たるのを感じつつ、ゆるりと瞬きをした。
瞬き一つでオロオロするのはアゼルくらいだ。
「だっだめなのかよっ?」
「ん……もう一声」
「んんんんんん……ッ!」
腕の限界を超える為にブンッブンッとすごい勢いで両腕をパタパタグルグルするから、風圧が凄くてまた研究所内がにわかに揺れた。
後ろでリューオが「魔王型扇風機ッ!」とヒィヒィ言っている。
理由はわからないが捨てられまいとして必死の様子に、優しくにこっと笑うと、アゼルはパアァ、と常夜に光が戻ったかのような満面の笑みを見せた。
ので──その頬を思いっきり平手で張る。
「いちいちかわいすぎるッ!」
「あぁッ! 音とは裏腹にギリギリで減速して叩かれたッ!?」
打って変わって目尻を釣り上げ睨みながらパシィッ! と打った俺を、頬を押さえてポカンと見上げるアゼルに、余計腹が立つ。
お前はいちいちかわいいがすぎる!
いい加減にしろ!
この間、既婚と知って結婚とか興味あったんだ! と希望と打算を持った身分問わずにたくさんの魔族から、側室目当てのお見合い提案やラブレターが送られてきたのを、俺が知らないとでも思っているのか?
馬鹿め。俺は執務をお手伝いしているのだ。
速攻灰にしても知らないわけがないだろう。
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