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第21話

 発見時は、そりゃあ焦燥感に駆られたさ。  目移りされないよう、もっと俺一人で満足してもらおうと、頑張る決意をした。  近頃は日々意気込みを新たに、不得意分野ながら俺なりに自分磨きをしていたのだ。  けれど今日はなんだか、当時を思い出して腹が立つ!  俺だって試行錯誤している!  筋肉が付き難い体質だが毎日トレーニングをして、スタイル向上に努めているんだ!  夜だって激しかろうが無限ラウンドだろうが一晩中意識を保てる様、体力アップに励んだり精力の衰えを危惧したり……!  在宅ワーカーで腹が減らないのに、食事の量を増やしたりしているんだぞ!  アゼルがくれたセレブ買いの衣服を無駄にしないよう、シンプル路線だが、普段の服装に気を使うようにしてみたりだな!  アクセサリーだってお菓子屋さんだから普段使いできないが、ウォークインの飾り棚から、お前の好みそうなのを着けたりする!  似合わないので見せないだけだ!  それでもイマイチ俺に備わらない可愛いの練習で、この間ガドに見守られながら萌え袖というのを試したぞ!  俺は日々目移りされない為に、可愛さを磨いていたというのに──! 「イケメンのお前が可愛さまで身に着けるなッ! 俺のことが好きなら、もっと魅力を抑えろッ! 俺以外にモテるな! このっ! このっ!」 「シャルッ! まっ、待ってくれ! 叩くな! ちっとも痛くねぇけど目覚める! なんか目覚めるから!」  パシィッ! パシィッ! とアゼルを叱りながら叩くと、アゼルは腕でガードしながら必死に制止をかける。  それをリューオが腹を抱えて笑い続けると、ユリスはリューオに文句を言う。 「こっ公開SMゥ〜! ヒィ〜! やめろ腹がよじれるッ! そもそも魔王可愛いとか思ってんのテメェだけだっつのッ!」 「アンタ笑い転げるのもいい加減にしなよぉ!? 魔王様は可愛いでしょ! かっこいいし最高で素敵でしょ! 溢れる魅力は抑えらんないよ当たり前じゃん!」 「よしそのまま魔王殺せシャルッ!」 「女性にモテるお前の顔面が悪いんだァァァァア!!」 「目覚めるからぁぁぁあ!!」  ──ドゴォォォォンッ! という強烈な破壊音と、秘められた苦労。  俺の怒りのジャーマンスープレックスが決まって、アゼルは研究所の床に頭から埋まった。  魔導具研究所が、実にボロボロだ。  最終的には流石に他の所員が様子を見に来てもおかしくない程、ユリスの研究室は荒れてしまった。  ◇  しばらくが経ち、ようやく俺の怒りとリューオの爆笑が落ち着いた頃。  俺はソファーに座らせたアゼルと向き合うように、彼の膝へ馬乗りになっている。  その首に腕を回し、じっとりと睨みつけるのは、お説教タイムだからだ。  決してイチャイチャではない。  なんだそのフワサラの髪は。  いいにおいがする。経費にあった桃の香油はお前か。  なに? 俺が桃好きだから?  馬鹿め、俺の好感度をこれ以上上げるな。次はアイアンクローだぞ。  そして俺のお菓子を毎日食べて三食も美味しく頂いているのに、なんだこのスタイルは。  防御力が高すぎて紫外線も弾く上に傷一つないから、肌もピチピチだ。  魔力量から魅了効果で眩しい顔立ちだとしても、追加で迂闊にシックスパックになるから、民衆にアイドル扱いされているんじゃないか?  早く三段腹になれ。  メタボリックは身体に良くないが、多少たぷついても大丈夫だろう。  ふくよかなほうが抱き心地がいいから、俺は大歓迎だ。  ん? 太れない体質? 着痩せもするのか?  よしよし、今の発言でいくらかの女子を敵に回したな。偉いぞ。  でも嫌いになられるなよ。  適度にたっぷり愛されていろ。  にしてもお前はなんで、そんなにいい身体なんだ? デスクワークのくせに。  太れなくともシックスパックはおかしいだろう。見た目と中身が一致してない。  メンタルは柔らか魔王じゃないか。  なんだ? 魔境時代鍛えていたから、筋トレしなくてもある程度筋肉がつく? 魔力で補正されて強化ボディ?  よしよし、その発言でいくらかの男子も敵に回したな。  クソ、俺も羨ましいから後で腹筋を触らせろ。 「そしてなにより目つきがエロい。やめろ。そういうところがいつまで経ってもアゼルなんだ。まったく不健全な顔をして」 「はい……」 「お前は目が魅力的過ぎるのだから、俺以外を見なければいいだろう? 簡単なことじゃないか。よそ見するようなら、首輪をつけて誰のものかわかりやすくしてやる」 「はい……」 「わかってないな……。首輪をつけるんだ、返事は一つに決まっているだろう?」 「わん……ッ!」  悟りを開いたのか、諦めたのか、目覚めたのか。  よくわからないがアゼルは真っ赤なまま頭からシュウシュウと湯気を立て、されるがままになっていた。

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