22 / 615
第22話
ジャーマンスープレックスを食らったのに、アゼルはたんこぶ一つできていない。
防御力が高すぎる。
メンタルはボロボロだが。
そんな様子を涙が出るまで笑ったリューオは、隣に座りながらまだ時折プルプルしていた。
明らかに面白がっているリューオに、噛み付く元気もないほどのアゼルだ。
「できたぁ! 魔王様! 呪いをかけた魔力の解析が終わりました! いつでも跡を辿れます!」
「! よくやったユリうぶっ」
「よそ見をするなと言っているだろう駄犬 」
「ぅ、ぅわん……」
俺がアゼルを襲っている間に優秀な美少年魔導具研究員の威信をかけて、急ピッチで魔力の解析をしていたユリスが声を上げた。
アゼルにとっては、まさに救いの一声と言った具合だろう。
声に反応して顔をそちらへ向けようとするから、ガシッと両手で頭を掴んだ。
あんなに言ったのに、まだ躾がなっていないようである。
掴んでいた両手をそのまま下方へスライドさせ、スルリと頬をなでてから、コツン、と額を合わせる。
「お仕置きされたいのか……?」
密やかに囁き、鼻先にキスをしてから脅す為に甘噛みした。
ふふん、この距離なら俺しか見えない筈だ。
そんなことをされてついにボフンッ! と爆発したアゼルは、いっそ開き直ったのか、俺の腰にぎゅぅぎゅぅ抱きついてきた。
「はっ……ぁわ……! ふ、不可抗力だ、不可抗力……ッ! してもいいからっ今すぐへ、部屋に帰るしかねぇぞ……! 二人きりでッ!」
「なんでだ? フンッ、良くわからんがそんなに喜んだら仕置きにならんだろう。却下だ」
「ぐうぁ……っ! い、いや……悪くねぇ……! 意地悪なシャルもこう、ご主人様と……!」
ひたすら叩かれ罵倒され、やはりなにかイケナイ性癖に目覚めたらしい。
羞恥プレイを乗り切り一皮剥けたツンデレは、メンタル強化に成功したようだ。
そんなある意味某配管工ゲームのスター状態なアゼルを、涙ながらに見つめるユリス。
非常にいい笑顔で見つめるリューオ。
仏頂面の俺。
同時にガタッと立ち上がり、呪いの元の魔力を辿るべく行動を開始する。
「で? 俺のなんの魔力がどうのこうのなんだ?」
「フッククッ……もうこのままにしておいていいんじゃねェか? 普段甘ったるくて砂糖吐きそうなんだしよォ、マゾ魔王は辛口のシャルも美味しく頂けンだろッ!」
「あぁ!? マゾじゃねェよクソ勇者! 俺はただしシャルに限るんだよッ! 何口だろうが平らげてやるぜッ!」
「あぁん魔王様ぁネズミごときに仕置きされたいなんておいたわしいっ……! 早くこの魔力探知を追って、犯人に解呪させましょうねっ!」
「お前たちはいつもいつも人の話を聞かないな? 誰か剣をよこせ、こう見えて鍛錬を怠った記憶はない。お前達のムダ毛を全部処理してやる!」
ツッコミ? いるもんか。
結局誰も互いの話を聞かない俺達だ。
ピコンピコンと魔力を追跡して反応を見せる魔導具を持って、ギャーギャー騒ぎながら部屋の出口に向かう。
魔王と元・勇者と現・勇者と海軍長官の息子のハチャメチャパーティ。
このまま人間国へ侵略すれば、いくつかの要塞を落とせる戦闘力だ。
残念ながら内訳は駄犬と飼い主(呪)と愉快犯と夢ショタなので、統一性皆無だが。
ピコン! ピコン! と強く反応する魔導具に従い、ユリスが勢い良く外開きの扉をバーン! と開ける。
──がしかし。
ガツンッ! となにかにぶつかる扉。
「ふぶあっ!」
「ん? なにこのモブ?」
騒ぎ過ぎたせいで中の様子が気になり、聞き耳でも立てていたのか。
足元には開いた扉にぶつかって目を回す、黒ローブの少年が倒れていた。
やんややんやと自由に発言していた愉快なパーティが、途端、静まり返る。
無言で倒れ込む黒ローブの少年を見下ろす四対の瞳。
そしてその少年にむかってピコピコピコンッ! とかつてなく激しく反応する魔導具。
俺は目が据わったまま、彼を指差し叫んだ。
「青島確保だぁぁぁぁ!!」
「それわかるのこの場で俺だけだかンな?」
ともだちにシェアしよう!