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第34話(sideリューオ)
しかし戦闘力は事足りるのに、シャルはまだいまいち乗り気ではない。
しゃーねぇ。
ここは必殺ワードでキメるか。
「城下の下見をしてよォ、俺はデートコース作ってユリスをデートに誘うつもりなんだぜ。お前も魔王の好きそうなもん見つけて、一緒に行かないか? ってデートに誘えよ。な?」
「! お、俺が誘うのか……?」
平然を装って〝魔王〟と言うと、僅かに声が弾んだ。よし。
「いくら外出禁止でもひきこもってちゃ、誘う場所すらわかんねェだろ。それは格好悪ィぜッ? お前等視察ばっかで、まともにデートとかあんましてねェんだろ?」
「そうか……そうだな、俺が先に街を知ってプランを立てればいいのか。城下なら存在も知れてるから、無闇に騙されたりしないだろうし……、……行ってみたいかもしれん」
「決まりだなッ! 流石シャル〜ッ! 話がわかる男だぜテメェはよ!」
ようやく頷いたシャルの頭に両手を伸ばして、ワシャワシャとなで繰り回した。
いっちょあがり。
魔王の話出せばちょろいからな、コイツ。逆もだけどよ。
されるがままに頭を乱されているシャルが、ふふふと目尻を下げて嬉しげに笑う。
「俺がアゼルの手を引いて街を歩くのは、初めてだ。うんと、楽しませてやりたいな」
「クククッ」
その顔を見ていると、つい手を止め、俺も喉を鳴らして笑ってしまった。
初めましての時は魔王のことを考えて、あんなに泣いていたのになぁ。
同じ人物を思って、今はこんなに楽しそうにしてやがる。
俺は懐に入れたやつのことは、殊更に大事にしてるンだ。
情が移ると、目をかけてやりたくなんだよ。
だからコイツが今こんな顔してんのは、結構和む。ダチだって思ってっからな。
「シャル。テメェは結構かわいいぜ。見た目なんて気にしなくても、中身がテメェはかわいいよ」
かき乱した髪を整えるように手櫛で梳いて、ポンポンと優しく叩いてやった。
シャルはキョトンとして俺を見つめる。
そういう顔とか、素直な反応とかも。
一見が男らしい男だから、ギャップってやつかもしんねぇ。
ニヤリと笑う俺へ、シャルは愉快そうにふふふと笑みを返す。
そしてツンツンと尖った金髪に手を伸ばし、同じように優しく俺の頭をなでてきた。
「擽ってェわ」
「お前は力が強い。あはは、でもありがとう。リューオはお世辞を言わないから、なんだか自信が出た気がする。中身か、中身……どのへんだろうか」
「ハッ、そういうところだろ?」
「んん、難しい」
穏やかなシャルは、月夜のような魔王と違って、只管に安心を与えてくれる。
日向じゃ眩しすぎる。
日だまりじゃむず痒い。
木漏れ日。
枝葉の影の涼やかさもあるが、疲れた体を包み込む優しく差し込む日の光。
俺にしちゃなでくり合うなんて似合わない行為も不快じゃないような、変な男だ。
疲弊した時には、会いたくなる友人。
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