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第39話(sideアゼル)

 ◇ 「魔王ってのは、体のいい厄介事処理屋だよなァ……」  死屍累々の死の大地と化した荒野を眺めながら、俺はなんの感慨もなく、愛剣を収める。  命を奪う、ということは魔界では日常茶飯事であり、誰も咎めることも取り締まることもない。  街中や通り道でやるのは邪魔だから、と軍部が出張ることはあるが……それは周りに面倒がかかり、戦闘の連鎖を避けるためだ。  どうでもいい有象無象を手にかけてもなんとも思わないのは、俺が特別欠けているわけではない。……と思う。  見た目が違うのもあるが、魔族は特に人間や天族とは倫理観も思考回路も違うから、俺はそこを密かに気にかけている。  人間のシャルに嫌われないように。 「魔王様、死体焼き尽くすの手伝ってくださいよ。疫病が出たら面倒でしょ?」  ぼーっとしていると不意に気怠げな声をかけられ、視線をそちらへ向けた。  パタパタと飛んでくる地味な物体を横目で捉え、軽く頷く。  濃いめのグレーの髪に赤茶の目。  コウモリの翼を持ち、顔色からは血の気があまりない。  魔界軍の軍服に身を包んだ、役職持ちの魔族では珍しくパッとしない容姿の、中肉中背の男がいた。  ハーフヴァンパイアのゼオ。  魔界軍陸軍長補佐官──〝冷血〟ゼオルグッド・トード。  この一見地味で人畜無害な平凡男は、その実、自分より下と見なした者へはかなりの毒舌家で横暴だ。  あの恐怖の権化、鬼胎の魔王の子孫である。まあ、認めた者には従順なんだけどな。  ゼオは相変わらずの無表情のまま、魔法を使い死体だらけの荒野を焼き払っている。  人間国の王を殺したからか、たまに軍が来るようになった。  今日は陽動のつもりか部隊をいくつか用意してたみたいだが、陸軍二部隊と俺一人でくまなく殺戮だ。  ただの人間だと、魔王城の軍を一人たりとも抜けることは不可能。  人間国も他にいくつかあるから、黙っているのは体裁が悪いんだろなぁ。  だがンなことは昔からわかっている。  だから勇者を召喚して特攻武器まで作って少数精鋭で魔王だけを狙ってきたのに、馬鹿なんじゃねぇの。  俺は仕事を増やされて、若干ふてくされている。  他国の敵は魔王の管轄、とか決めんなよな。後片づけまでこっち持ちって、人間は本当に面倒くせぇ。  小さく舌打ちして、ゼオと同じように手のひらを荒地に向けて魔法を放つ。 「闇、燃やし尽くせ。範囲、魔眼、地表。はぁ……行け、燃えろ」  やる気のない声に乗って、闇の魔法は勢い良く黒い炎となり、荒地を焦土に変えていった。  魔法。大きいやつは声を使って強い言葉をかけないと、威力が出ない。更に範囲広げたいなら、目の力も使わねぇとだめだ。  召喚魔法や照明なんかの生活の小さな魔法は身振り手振りで十分だけど、攻撃魔法は段違いに魔力を使う。  その魔力が一度も尽きたことのない俺は、本当のところ少数の近接戦闘より、こういう殲滅戦が得意なんだよ。  暗殺とか一対一とか、すげぇ下手。  そういうわけもあって、侵略されたらすぐゼオは「魔王様、お願いします」と俺に話を持ってくる。 「やっぱり魔王様に根絶やしにしてもらってからバーベキューにするのが一番楽、いや確実で良いですね。あ、もういいですよ。全部炭になりました」 「楽っつったお前。闇、消えろ」  フッと手を振ると、嘘みたいに荒地の炎は消えて一面黒色になった。  このぐらいじゃ怒ったりしねぇけど、コイツは時々、俺が魔王ってことを忘れてんじゃねぇかと思う。

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