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第40話(sideアゼル)

「他は?」 「マルガン長官(スケコマシ)がもう終わらせてる頃じゃないですか?」 「お前の中でマルガンの立ち位置日に日に悪化してねぇか」 「俺の仕事、増えてるのあの女好きのせいなんで」  マルガンを語るゼオは、絶対零度の瞳だ。内心でゴミムシ風情がと罵倒しているのがよくわかる。  ちなみに俺たちの言うマルガンとは、不死身の体を持つナイトリッチの魔族である、陸軍長長官のこと。  痛覚がない上に防御力がからっきしだが、魔力尽きるまで復活するレアな魔族だ。  魔界軍陸軍長長官──笑死魔将(しょうしましょう)、マルゴリー・マリゲリーテ。  金髪タレ目の優男。そして女好きのスケコマシ。不真面目。  仕事をすぐにサボる馬鹿で、息をするように誰でも口説く軟派男だ。  ゼオの好ましい人物像は、曰く〝キチンと仕事を熟す・面倒なことを言わない・軽薄でない〟。当然マルガンはトリプルアウトである。  そういう意味で、仕事はするしシャル関連以外だいたい受け流しシャルしか見ていない俺は、ゼオの仕える魔王に相応しかったということらしい。 (……。……シャル)  思い出したら会いたくなってきた。  いや、割と日々毎分毎秒会いてぇ。  俺は途端にソワソワとし始める。シャル、シャル。あぁ、今頃なにしてるんだ……! 離れてるとソワソワしてくんだよ……!  脳内は絶好調。  今日のお菓子はフロランタンだった。  俺はそれを宝物庫に半分永久凍結魔法をかけて、保存した。毎日半分保存している。  この間一緒にキャラメルタルトを作った時も、密かに確保したシャル手作りのほうを一ピースまるまる保存したぜ。抜かりはねぇぞ。  今日のフロランタンはライゼンが在庫管理でうろうろしていていなかったから、俺一人でティータイムに美味しく食べた。  ライゼンのぶんもな。これは秘密だ。  思い出すとニヤニヤしてくる。  シャルの菓子は惚れた欲目を抜きにしても、うまいんだ。  真面目だからコツコツ研究していて、初めの頃より腕が上がっている。  三段腹になるためにも最近多めに飯を食うが、シャルの菓子は別腹だ。  ちなみに今のところ、一向に腹に駄肉はついてねぇ。まぁ魔族、魔力の高さで見た目で魅了効果つくからな……。  魔力の暴力な俺は多少窶れたり痩せたり隈ができたりはするが、大きく容姿を損なわない体質なんだ。  でもシャルが三段腹になれって言ったなら、叶えるのが俺である。  俺はいつかハリボテ体質を克服して、見事なビール腹を手に入れるぜ! 「くぅぅ……目指すはオークの中年腹だな……! 待ってろシャル、お前の理想の男になるからな……!」  シャルというワードだけでここまで考えて結論に至り、意気込み新たにぐっと拳を握る。  するとゼオが無表情のまま、僅かに首を傾げた。 「魔王様のお妃様は、醜男が好きなのですか? 大衆向けのわかりやすい美形という意味では最も真逆に位置する魔王様を夫にしておいて、変わった性癖の方ですね。……いやむしろあえて美男子を醜男にするのが、楽しみなのか……? ほう。気が合いそうだな」 「は? アイツは俺に〝たるんだ腹になれ〟って言っただけで、別に性癖は普通だぞ。俺を煽って興奮する変態だけどな。ふっ、そこがまたたまんねぇんだぜ……!」 「ノロケは結構ですし、お顔がニヤけてらっしゃいますよ。たるんだ体に興奮するなんて、とんだドスケベですね? お妃様。会ったことないですが」 「! ばっ、ドスケベじゃねぇわアホ! ……いや待てよ、スケベなシャルか……クク…ッ!」 「お顔がニヤけにニヤけてらっしゃいますよ」

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