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第41話(sideアゼル)
ニヤニヤとする俺を胡乱げな視線が突き刺すが、今の俺にはどうでもいい。
(スケベなシャル、ありじゃねぇか……!)
実のところ、俺はいろいろ試してみたいプレイがある。
マルガンにそういう桃色な男性向け雑誌を借りたが、気になるやつがいくつか。
アイツはきっと頼めばしてくれるかもしれないが、しかし頼むのは恥ずかしい。生きるか死ぬかという程恥ずかしい。
いいか? 俺はな、そんな雰囲気じゃねぇ時に言葉にするのが恥ずかしいンだよ!
普段も夜シたい時は多めに血を吸うんだ。そうするとアイツがムフフな感じになるだろ? そこを有耶無耶に持ってイく感じだ。
一緒の部屋に住み始めてから吸う量が増えたから、血を吸わない日も結構ある。
けれどそういう時にシたくなったらすげぇ抱きしめてキスすると「いいぞ」ってアイツは豪快に服を脱ぐ。
慣れてきたのか男らしい。好きだ。
そんなわけで俺はうまいこと態度で示して、コトをなしてきた。
だがこういうことがしたいって言うのは身振り手振りじゃ無理だろ? 伝わったら伝わったで恥ずかしいだろうが! 馬鹿か! 破廉恥め!
後頼んだらやってくれるだろうから、本当は嫌だったら可哀相だろ。
身体はじわじわ仕込んでいっているが、プレイに好き嫌いの趣味嗜好はあるかんな。
で、話が逸れたから戻そう。
そこでスケベ戦法。
シャルがエロくなれば、そういうのに興味持って自分から強請ってくるかもしんねぇ。
強請ってくるってことは嫌じゃねぇだろ? そして俺はシャルのしたいことはなんでもしたいから、どれもこれも嫌じゃねぇ。
無敵の俺。
完璧だ。これは完璧なシステムだぜ。
今日の予定を頭に思い浮かべる。
この後は書類仕事だけだ。それもすぐ終わるだろ。と言うか終わらせる、クックック。
「ゼオ! 勅命 だ、人をドスケベにする方法を今すぐひねり出せ。一時的にじゃねぇぞ? 安全かつ長期的にだぜ」
「ありませんね」
「完璧なシステムが潰えた」
「そんな絶望的な顔しなくても。アンタどんだけ嫁にエロくなってほしいんですか」
俺の天才的な脳が捻り出した完璧なシステムが、ゼオの一言であっさり消え去った。
違ぇよ、ゼオ。エロに全力なんじゃねぇ。俺はシャル関連全部全力なんだよ。
そんな言葉も口の中から出てこなかった。
しょもん、と魔王らしからぬ顔をする俺を、ゼオが興味津々でしげしげと覗き込んでくる。
「地道に三段腹目指すしかねぇのか……? クソ、うああ、シャル今なにしてっかなァ……また今度寝たフリしたら膝枕してくれんのかなァ……あれから毎朝シャルより遅く起きてんのに、効果はねぇぞ……」
「さっきまでいつも通りに仕事してた筈が、お妃様のことを考えた途端、ポンコツに……。魔王様〜、そろそろ城に帰りましょう。お妃様のお仕事も、もう終わっている筈ですよ? 膝枕でもなんでも本人に強請ってください」
「あぁん? シャルの仕事? お菓子屋のか?」
「それは知りませんけど今日は助っ人に来るって情報があったんで──宰相様と宝物庫の数量確認してますよ」
「…………」
仕事がなにか? とゼオはよくわかっていない様子で首を傾げる。
それを尻目に、俺はゼオ衝撃発言に黙り込んでから、しばし硬直した。
……どこに行ったって?
宝物庫? 宝物庫って魔王城のか? あの? ──俺のコレクションコーナーがある?
「……ゼオ、俺は先に帰る。後」
『任せた』
「は?」
返事を聞くより早く、俺はブワッ! と第三形態になった。
そして兎に角無心で俺が出せる最高速度をキープし、魔王城に向かって空を駆け出す。
一分一秒が惜しい。
侵入を阻止せねば俺はたぶん死ぬ。
(なっなんでだ!? なんであそこにシャルが行くことになるんだッ!? 普通にしてて絶対入ることがない場所だろッ! クソォッ!)
たらたらと冷や汗を掻きつつ、景色なんてよくわかってないまま走り抜けた。
内心で頭を抱えて、ギャーギャーと叫び回る空中ダッシュだ。
『うおおおおあれがシャルにバレたら羞恥心で死ぬッ! 流石に怒られる自信もあるッ!
あそこには俺が密かに集めたシャルコレクションがあるんだァァァアッ!』
スウェンマリナで切り裂かれたから捨てたと言って回収したシャルの服とかッ! 前まで使ってた部屋のベッドとかぁッ!
毎日のお菓子アンドお菓子の包み紙を日付別に専用棚に並べたりとかなッ!
(み、見られるわけにはいかねぇ……!!! 走れ俺! 風のように、いや風よりも早く!)
生死をかけた全力疾走をしながら、俺はいるのかいないのか興味もなければ信じてもいない神様に必死に祈るのだった。
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