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第42話
──アゼルが俺コレクションを本人に見られるのを阻止するために必死に走っているのと同時刻。
残念ながら手遅れな事に歴代魔王コレクションを辿る俺とライゼンさんは、アゼルのコーナーまでやって来てしまっていた。
「おお、アゼルのコーナーだな。この辺が今の時代か」
「そうですね。魔王様はシャルさんがいらっしゃるまで殆ど宝物庫に立ち入らなかったんですが、あの日からちょくちょく出入りしていらっしゃるのですよ」
博物館の様に整理された魔王ヒストリーは面白く、ライゼンさんと茶々を入れながら進むと数時間ですぐに今の時代に来てしまった。
アゼルの肖像画もあるな。
今とあまり変わらないと言う事はそんなに古くない絵画だが、絵になってもアイツはすこぶる美形だ。
しかし俺が来てからしかコレクションしていないにしては……やたら綺麗に細かい物から大きな物まで並んでいる。
アゼルは何を集めているんだろう?
そう思って何気なくよくわからない物が並んだ棚に顔を寄せてみた。
「ふむふむ……アゼルも手書きのタイトルが書いてあるな、これは……〝種〟。んん、そのまんまだな。なんだろう?」
「種ですか?私も魔王様が何を集めているのか知らないのですが、珍しい植物の種なんですかね」
「アゼルは植物が好きなのか。でもこっちは〝初代触られた〟って書いてある、……布?」
「布ですか?何でしょう、魔王様の普段着と同じ生地な気もしますが…」
俺とライゼンさんは二人揃って首を傾げる。
価値のある物を集めているわけじゃないのだろうか。
先代魔王は壺コレクションだったし、魔王は各々なにかしら集めていると思った。
でもアゼルはそれだけを集める程ハマっている物は覚えがないし、気まぐれに飾っているだけかもしれない。
んん……それにしても、タイトルが単語や感想でわかりにくいものが多いな。
俺もライゼンさんも一番良く知る魔王な筈なのに、基準がわからなくて解読を諦めた。
だがそこそこ大きなものを見始めると、ライゼンさんは「これは……まさかこれ全部!?」となにやら驚愕し始める。
「どうしたんだ?共通項がわかったのか?俺にはこれはただの檻に見える。名前は〝ハレンチ〟だが……どの辺がだろう」
「ええと、そうですね、それは……シャルさんが攻めてきた時に、一時的に入って貰っていた檻ですね。つまり魔王様のコレクションはおそらく全て、シャルさんコレクションだと思われます」
「ん!?」
額に手を当てて頭が痛そうに告げられた言葉に、俺は目をぱちぱちさせてぽかんと綺麗に並べられた大量の統一性のない物達を見上げた。
なんだと。
初代魔王が嫁コレクションをしていて愛の深さに驚いたが、まさか俺の魔王も同じ事をしているのか…?
「こ、これが全部俺関連なのか……でも種とかあったぞ…?」
「信憑性はありますとも。魔王様が執着したのは私の知る限り恩人様とシャルさんだけですし……そこにふざけてるとしか思えない強度の魔法陣結界に入れられて置いてあるベッドは、シャルさんの前の部屋のベッドですね」
そういえばなくなってましたから、とライゼンさんは死んだ魚のような目で飾られたベッドを見つめた。
確かに見覚えがあるぞ。
ちなみにタイトルは〝寂しい時に〟だった。
俺の使っていたベッドを寂しい時にどうするんだ。
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