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第52話
「アゼル、もうよくなってきたからお前も早く服を着てくるんだ」
無敵の魔王とはいえ初めての風邪をひくかもしれない。
それを危惧する俺はアゼルにバスタオルを押し付けて、着替えの用意された籠を指差す。
「本当に大丈夫か?クソ勇者のせいでうっかりしてたぜ、人間なんて貧弱脆弱惰弱のトリプル弱々種族…!風呂に入って死ぬなんて…!」
「まだ死んでないぞ」
心配のあまり勝手に俺が一度死んだことになっている。
アゼルは俺に押し付けられたバスタオルを抱きしめてか弱いものを見る目で見てきた。
俺はいつまでたっても魔族にハムスターだと思われる運命なのか?そんな馬鹿な。
だが譲るわけにはいかないので、ここは断固として目を逸らさず言い募る。
「正直に言うと俺は後処理したいんだ、なのであっち向いててくれ。恥ずかしいだろう」
「嘘つけ今更お前がそのくらいの事が恥ずかしいかよ。俺がやる」
「いや、凝視されたら恥ずかしい流石に。それにアゼル、これはお前にすると多分、難しいんだぞ」
「?なんでだよ、お前がオチたら俺がいつもしてんだぜ」
訝しくジト目で責められ、そんな理由じゃダメダメと首を振るアゼル。
いかに俺がオチすぎて後処理の熟練者となっていても、俺が起きている場合最優先に気遣わなければいけない事があるのだ。
大事なコメを伝えるので、俺はピンと人差し指を立て、いいか、と真剣な顔をした。
「さっきまでここで散々気持ちいいことしてたんだ、まだ腫れてるしジンジンしてる。つまり今は指でも何でも挿れたら感じる。が、それでうっかり勃ったら目も当てられない。体力はもうないんだ。それは重大案件なんだぞ?」
「あぁ……なるほどな、お前の意識があるとその気になったら無限ループなわけか……じゃあ俺がそっとやるぜ。任せろ、お前の体は知り尽くしてる」
「ダメだ。自分でやるよりお前にされる方が欲情するから危険だ」
キッと目を鋭くして、より真剣に言い切る。
あまり俺の体を舐めないで欲しい。
お前にひたすら色んな所を触られて色んな所を感じるように開発されて、もはやアゼル相手ならどこでも触られると多少なりともムラムラするようになったんだ。
服の上なら問題ないが、素肌どころか体内を触られたら変な気にならない自信がない。
アゼルは俺の身体を知り尽くしてると言うが、俺だって最早アゼルの指ならどの位まで奥へ届くか覚えているんだぞ。
「んんん…っ…そ、れは、うぐぐ…どうしようもねぇだろうが…!」
「と言う事で早く着替えてきてくれ。その間に終わらせる。念の為に覗くんじゃないぞ、煽り耐性ゼロなんだろう?」
「お前限定だぞ?いや覗かねぇけど、覗かねぇけどな?俺に見られて困るのか?隠し事はナシだぜ?」
さっきまでフラフラだった俺に目が届かないのが心配なのか、覗くのもだめだというと渋い顔をしてグルルと唸る。
この唸り声は気に食わない時のだ。
別に見られていないうちにコソコソとするわけではないのに、心配性だな。
俺はそばでバスタオルを抱えてしゃがんでいるアゼルの頭をガシッと掴み、素早く頬にキスをした。
チュ、
「ぉあ!?な、なんだよ…!」
「──頬にキスされただけでムラムラしてるお前に、俺が自分で中に指突っ込んでるのを眺めて手を出さない自信があるのか?」
もう今日はシないぞ、とダメ押しで言うと、アゼルは黙ってもそもそと洗面所の奥へ着替えに行った。
ふむふむ、自信がなかったのだろう。
……かく言う俺も拒む自信がないからなんだが。
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