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第51話
♢
逆上せた。
それはもう当たり前だが、逆上せた。
頭がクラクラする現在の俺は、浴室と洗面を仕切るカーテンの向こうでとりあえず大事な所をバスタオルで隠しつつ、アゼルにせっせと手で扇がれながら介抱して貰っている。
この世界にうちわはないようだ。
風呂に入ってから俺が限界を迎えるまで二時間は経過した今。
大体にして、湯船で体力オバケのアゼルに付き合えるわけがなかった。
ベッドでも未だに先に力尽きるのに、何故せめて浴槽から出なかったのか。
自分を過信しすぎだぞ。
まぁ、正確にはいつも通り欲に溺れて前後不覚になっただけだったりする。
今日は吸血していないが、元々理性が飛ぶと歯止めが効かないきらいがあるからな……俺は。
そしてアゼルは理性が飛んだわけでもなければ逆上せてもいない。
普通に本能の赴くまま俺を抱き潰しただけだ。こっちのほうが質が悪いと思うんだ。
「うぅん……アゼル、中にまだいろいろ入ってるから、なんか漏れてくる……でも今無理だ……今頑張ったら死ぬ……あぁ〜…」
洗面台にもたれ掛かって床を汚すのが嫌だとグデグデ訴える。
イくと同時に逝きかけた俺は全裸で担ぎ出されたままだから、中に出されたものやいくらか入ったお湯がじわじわ滲んで来た。
うぐぐ……ちょっと今すぐ括約筋に本気を出させることはできないぞ。
そして風呂場に戻って掻き出す元気もない。暫く介抱して貰い多少マシになったが、すこぶるダルいのだ。
「だっ、わかっわかったから後で俺がやるから死ぬなぁぁっ、闇の回復魔法はスタミナとか中身はどうしようもねぇんだ…!」
パタパタパタッ
「うひっ、ぅ、うおぉぉ…!し、死なないから風速を下げろ……さむい…!」
「あわっ、わ、こっこれで!」
「むぐむぐ……ぷはっ、死因バスタオルは嫌だ…」
俺の訴えで焦るアゼルが扇ぐ手の速度を早めるからちょっとしたそよ風が起きてしまって、濡れた体が冷えてしまう。
そう言うと手近に積まれたふかふかのバスタオルを降り注がれた。暖を取る以前に窒息死まっしぐらだ。
取りあえずその大量のバスタオルを避けてちょっと休もうとぐったり横になると、あわあわ落ち着かないアゼルはバスタオルで俺の髪や身体を拭いてくれた。優しさだ、胸キュンだな。
「んんん……ありがとう、お前も風邪を引くから早く服を着ろ…」
「俺は生まれてこの方病気になったことねぇから、気にすんな。だからお前、死ぬなよ、死ぬなよ…!?」
「お年寄りでもないんだ、逆上せて死ぬことはないぞ。……うん、よくなってきたな」
頭がグラグラと茹だっていたのが横になったのと冷めてきたので少し回復した。
俺の体はそこそこ頑丈だからな、怪我も多い職だったし。
しかし体力を増やすためにいろいろ頑張ってはいるものの、なかなか効果が出ない。
これはもっと頑張らなければ。
アゼルが俺の身体の水滴をそーっと綺麗に拭い終わる頃には、ある程度俺の体調は回復した。
バスタオルの山から体を起こしてみる。
よしよし、問題なさそうだ。
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