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第54話
「?あれは……なんだ?」
「人型だな。──闇、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性」
「おぉ、ありがとう」
俺がモヤに気がつくとアゼルにはこの距離でもモヤが人型だという事まで見えたようで、警戒から高度と言われる耐性バフをかけてくれた。
バフはリューオが元々もっている耐性スキルのように永続的な物ではなく、一時的な物だ。
それでも術者のアゼルの込めた魔力を超える攻撃でなければ通らないので、実質今の俺は初撃なら殆どの攻撃にあまりダメージを受けないだろう。
アゼルの闇魔法は回復や防御には向いてない。広範囲攻撃特化なのだ。
あまりこういう補助魔法の効果を発揮しない属性と言うのが魔法にはある。
魔族は種族補正もあるようだが、それは詳しくはよくわからない。
例えば夜闇に生きる種族のアゼルは、夜にステータスアップしてかつ気配を消せる。……らしい。
情報源はおなじみ空軍長ガードヴァインさんだ。
ガドが休みの日はアゼルが仕事に行っている間に、俺と二人で割とよく遊んでいる。
閑話休題。
じりじりと慎重に近づくと、ベッドの上に人型のなにかがいるのが俺にもわかった。
それは近づいて行くにつれ、俺に覚えのある人物だと気がつく。
ベッドから一メートルほどの距離で立ち止まった俺達を、金髪碧眼の王子様が我が物顔で寝そべりながら「やぁ」と微笑んだ。
「リシャール?」
「!?……知り合いか?そうでなければ俺は今すぐこいつを攻撃するぜ。そうであっても一発殴るぞ。止めるなよ」
『シャル、君の愛する人はなんて凶暴なんだ。争いは良くないよ』
そう言って、いつの間にか戦闘態勢で血鎌を四本遊ばせていたアゼルに困ったような顔をするリシャール。
まさしく、彼は階段の踊り場に飾られた絵画の幽霊だ。
声だけの存在だったリシャールは半透明に薄く発光してはいるが、絵画の中から出てきたように美しい容貌を西洋の王子様のような衣装に身を包んで優雅に佇んでいる。
黒い衣装で鋭い目つき、面立ちもどちらかと言うとワイルドなアゼルとは対極的な、優しげな男。
それが何故ここにいるのか。
俺は首を傾げた。
「アゼル、彼はリシャール。幽霊だ。知り合いというとそうだが……今日知り合っただけなのでよく知らない」
「幽霊?ゴースト、レイスか?レイスは幽霊じゃねぇよ、生まれは霊魂だが魔力を持つ霧の塊みてぇな魔族だ。そしてコイツが魔族なら、俺の……魔王の私室に無断侵入したんだぜ」
つまり、殺してもいいと言う事だ。
続きを言わないアゼルだが、そう言いたいんだろう。
魔王城にいると言う事は部下かか弱い住人なのだ。やすやす弄んでいいものじゃない。
それでも理由があれば、アゼルは殺せる。
それ程に気に食わない。抱きしめる腕の強さがそれを物語っていた。
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