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第105話

「ヒョロヒョロでも勝っただろう?俺はやればできる子じゃないか?」 「俺のお前がクソ勇者に負けるかよ。お前はこの俺を何度も突き刺したんだからな」 「その後瞬殺だったけどな」 過去を思い出して、今は勝ったとは言え堂々と戦うとまだまだ自分は弱い事を心に刻む。 アゼルはそんな俺を見つめて「シャル」、と声をかけるとふいっと顔を逸らした。 首を傾げると、モゴモゴしながら手の甲で唇を抑える。どうした?歯にクッキーでも挟まっていたのか? キョトンとして声をかけようとしたが、それを手で制したアゼルは腹を括ったようにふんぞり返って腕を組んだ。 「た、戦うお前は、か……かっこよかったぜ。だからもっと、好き、になった。あれだ、あの、惚れ直したってやつだ。まぁ俺は勝つってわかってたしな」 「!」 なんてこった、今ならリューオの一人や二人、いくらでも相手にできそうだ。 アゼルが俺が聞く前に褒めてくれたぞ…! 自分の目がキラキラしているのがわかる。 俺以外にでもなく、話の中でもなく、改まって面と向かって比較的素直に褒められた…! あの照れ屋でツンデレなアゼルが。 勢いで嫌いとか言ってしまうアゼルが。 俺との結婚生活に慣れたのと、呪いで羞恥プレイをさせられたりして羞恥耐性が上がり、色々暴露して開き直ったりして、素直になってきた様だな。 俺はぱちぱちと拍手をして、嬉しさのあまりにへらとゆるい笑顔を浮かべてしまった。 アゼルが真っ赤になるが、俺はにこにことそれに気付かずアゼルの手を取って喜びを伝える。 「ありがとう、俺ももっと素直になるからな。アゼルにますます惚れ直した。お前に褒められるのが一番嬉しいし、本当はカッコイイって言われたくて勝つ為に張り切っていたんだ。うん、凄く嬉しい……ふふふ」 「あぁう、う…っおっお前は素直はもういい!もういいから!」 「ん?そうか?」 「うぅぅ格好いいからのにこにこ可愛いうぅうぅ…!」 不安にさせない為にも気持ちは余す所なく伝えていこうと俺も素直に感謝を示すと、アゼルはまたブツブツと何事か言いながら抱きついてきた。 それをぎゅっと抱きしめ返して、今日はなんだかいい日だな、と勝者の元・勇者は笑う。 「なんっっっで、魔王は抱きついても嫌がられねぇで俺はダメなんだ?わっかんねェ。なにが大違いなのかわかんねェ」 敗者の現・勇者は理解できないと不貞腐れて、自分の方が素直なのにとぼやくのだった。 悩める彼の恋が一歩進むのは、もう少し先の話。 五皿目 完食

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