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第104話
「……炎、消えろ」
ややあってリューオがボソ、とそう呟くと、包囲していた炎が消えた。
伝わってきていた熱気もなくなり清々しい。
俺は剣をしまい、リューオも剣をしまう。
そっと立ち上がると、悔しそうに舌打ちされた。
勝負は決したと言う事だ。
よかった、勝てた。
内心ほくほくするが、リューオは負けず嫌いなので不満満載の顔で俺を睨んでいる。
「ケッ、目ェ離した俺の負けだコンチクショウ。汎用性高ぇ魔法陣、隠密で使われたらクソだなクソ。ゼッテェ次は三枚におろす」
「ん……俺は奇襲以外では勝てないぞ。ヨーイドンの試合だと多分大抵負ける。それに本来俺は、急所を一撃で仕留めるスタイルなんだ」
「負けた俺に嫌味かオラ」
「いや、次は負ける」
これは本当。
敵意丸出しでオラオラしてくるリューオに再戦はないと言って、俺はさて、と期待を胸にアゼルの方を見た。
んだが。
四つん這いで地面を殴っているのは何故だ?
審判なのにジャッジの旗を手放している。
「俺のシャルがカッコイイ来たぞってカッコイイ最後ニヤってしたカッコイイ可愛いしカッコイイ好きだやべぇおい聞いてくれ世界カッコイイんだもう一度言うぞカッコイイんだ好きなんだはぁぁぁ…っ!」
なにやらブツブツ言いながらドウッドウッと地面を殴りつけるアゼル。まさか発作か。
相変わらず条件がわからない。
遠目で見ていても埒が明かないので、リューオが渋い顔で嫌々近寄っていく。
俺もトコトコとついていくが、小声なのでアゼルが何を言っているのかわからない。
……せっかく、カッコイイと思われたくて勝ったのに、肝心な所は見てなかったのか?
ホクホクしていたが、少し肩を落とした。
俺だって男なんだ、好きな人によく思われたいんだぞ。
「魔王テメェ審判しろやッ!」
「うるせぇ今忙しいんだよッ!」
ズカズカ近づいていったリューオが蹴りを放つと、アゼルはパッと起き上がってガウッと吠える。
グルルルと唸る二人の背後に虎と狼が見えた。
猫科と犬科か。わかる気がする。
そして褒められるかと期待していたのがなくてしょんぼりと肩を落とす俺の背後には、きっとハムスターがいるのだろう。
「アゼル」
「なんだよ」
呼びかけるとアゼルはスッ、と立ち上がり何事もなかったかのように素早く俺の元へやってきた。アゼル、リューオが後ろで怒りに震えているぞ。
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