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第103話
体勢を立て直し剣を構えたリューオは、すぐに俺がいない事に気が付きチッと舌打ちした。
対応が早いな。
「クックック気配察知スキル持ってねぇっつのッ!でもな、俺は負けねェ。炎、螺旋、包囲ッ!」
ゴオォォォ、と細い炎がリューオの周囲に舞い上がり、リューオ自身を螺旋階段のような筒状に囲んで包囲した。
こう言う規模が大きく形状が単調じゃない魔法は、範囲も練度も必要な難易度の高い魔法だ。
残念ながら属性魔法スキルを持たない俺には、水魔法で消し去るような事はできない。
隠れているとはいえ触られるとバレるので、俺はすぐに近くの木の上に潜んでどうしたもんかと様子を見る。
あれじゃリューオも攻撃できないと思うが。
後アゼル、俺のいる木をガン見するのはやめて欲しい。バレる。
「まぁ、策がないわけじゃないが」
攻撃を仕掛けられずにイライラするリューオを眺めながら、ぽそりと呟く。
このままリューオが我慢の限界で暴れだすまでまってもいいがそれじゃあどこかの建物を壊しかねないからな。
うっかりアゼルを燃やされても困る。
俺もできれば穏便に勝ちたい。
それに気付かれる前に仕留める暗殺者だったと言っても、バレる事はあったんだ。
あぁやって包囲してきた人もいたし、防御結界に立てこもった人もいた。
俺は……リューオやアゼルと比べると、魔力も少ないし火力もない。
もし仮にここにいる三人が、一人で敵に挑むとするなら。
大群相手の殲滅戦ならアゼルが適任だ。
圧倒的かつ、絶対な広範囲魔法の連発。
敵が辿り着く前に全滅だ。
ドラゴンやキメラなんかのとんでもモンスターと戦うならリューオがいいだろう。タフでパワフルで好戦的。決定力十分。
炎の包囲の中で野生のトラの様な様子で剣を構えている、そのリューオ。
影ができないように太陽の向きに注意しながら動き出す。
そんなに集中してもスキル行使中の気配は消えるんだ、悪いな。
さて、俺は魔法陣に関しては自信がある。
「物理反射。不可視」
手の中でいくつも作った物理攻撃を反射する直径二十センチ程の小さな魔法陣。
そこに目に見えなくなる不可視の魔法陣をピタリと同じサイズで重ねがけする。
これで見えない物理反射の魔法陣完成。
見えない罠の魔法陣は踏んだら見えるし攻撃がかかっているが、こちらは踏んでも見えないし俺も無傷だ。
おわかりだろう?
「うぅあぁあ、もう焦れってぇなァ…ッ!性分じゃねえンだよ持久戦とかッ!シャルッ!打つ手がねェなら降参しろッ!打ち合いてぇなら魔法解いてやるぜッ!?」
ドカァンッと聖剣を振り下ろして地面に亀裂を作る短気なヤンキー勇者が、攻略法がなくて黙ってるだけなら終わらせろと叫ぶ。
その叫びを上げると同時に……俺は走り出し、炎の包囲に這わせるように魔法陣を階段状に空へ飛ばした。
足音すらたてないが、念の為。
お前の声に合わせて動く。
リューオが言葉を言い終わる頃には、俺は魔法陣を駆け上がり、リューオの真上に飛び上がった。
物理反射が俺が蹴り上げる力をまるごと跳ね返し、跳躍は螺旋の炎の壁を超える程高みへ押し上げる。
人間は空を飛べないが駈ける事はできるのだ。
「(加速)」
壁の唯一の穴は、真上。
人間が辿り着くには些か高すぎる侵入口だが、魔法陣の力で俺は見事空白に身を投げた。
剣を真下に構え、突き刺すように落下する動きに対して、加速までかけるとその速度は秒もかからない。
両足に身体強化を集中させて、砕け散らないように補強。
落下地点は大体リューオの振り下ろした聖剣の真横だ。
「男らしくかかって」ヒュッドスンッ!
「来たぞ」
──男らしいだろう?と笑いかけた時の、リューオの表情たるや。
突き刺すわけもないのでリューオの足の間に剣を刺したんだが、その気があれば串刺し勇者の出来上がりだ。
ここでさっきの話の続きになる。
一人で敵に向かうのならば、な?
俺は恐らく暗殺や奇襲、一対一なら三人の中で一番上手いと自負してみたりするのである。
アゼルがかっこいいと褒めてくれるといいな。
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