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第102話
「──チッ……じゃあ、安全第一かすり傷一につき腕一本試合ィ……」
「ん?ん、ん…?」
「え?待てそのレート可笑しくね?」
「始め」ドガァンッ!
非常に不満そうなアゼルの言葉に、首を傾げる俺とリューオ。
だが、開始の合図と共にお互いがスイッチをカチリと切り替え素早く動いた。
飛びかかって大剣を奮ったリューオを避け、俺は死角に潜り込もうと走り出す。
しかし……凄い威力だな。あの重量を振り回しながらなんで素早く動けるんだ。
反応も早いしなによりパワーがある。
リューオは、強い。
だが速さなら俺に分がある。
魔力量が戻った事で全身に身体強化魔法をかけてられるので、いつもよりずっと速いぞ。
今日の俺は負けるわけにはいかないのだ。
ちょっと頑張って動き回っている。
ガァンッドカッ
「オラオラ逃げんなよォッ!?せめて打ち合えやッ!」
ガツッ
「バカ言え、それと俺の剣打ち合ったらもろともミンチじゃないか。避けるかギリギリ受け流すぐらいしかできない」ヒュッ
ドカァンッ!
「〜〜ッこのッ!シャァァァルゥッ罠やめろ殺すぜェッ!」
「め、目がガチだ…」
テンションが上がり過ぎだろう。
俺を追いかけ飛んで跳ねて斬りつけてくるリューオが、喜色満面の殺人鬼みたいな表情をしている。
息つく間もない連撃に避けるかいなすのでやっとの俺は、隙を見てはリューオの着地点に魔法陣を飛ばして罠を貼る。
だがそれにかかるとウキウキマックスでブーストしてくるので質が悪い。
あれ踏んだらちょっとした地雷レベルで爆発するんだが…。
嬉しそうなのがより怖い。リューオはマゾヒストと言う奴なのかもしれないぞ。
「炎ォッ!纏えッ!」ゴォッ!
「熱、っ」
紙一重で避けると、突然避けた剣身が燃え上がった。
反射的に頭をブレさせ、飛び退く。
が、そこに聖剣の振りを利用した蹴りが飛んできて、虚をついた攻撃に流石に逃れる事はできない。
……ふぅ、これは避けれないか。
ならば。
「加速」ブンッ
「ハァッ!?」
リューオの蹴りが俺の頭に到達する前に、足を上に振ってその動きに加速の陣を同時で貼り付けた。
タイミングをずらせばいいわけだ。
タンッと地面に一瞬手をついて跳ね上がる。
蹴りを空振った上に聖剣を振った遠心力が残っているリューオは、そのままグリンと身を捩って即座に体勢を整えた。
だが、その一瞬俺から目を離している。
「(隠密)」
それを見逃す俺ではない。
内心で呟きスキルを行使すると、俺の姿はリューオには捕らえられなくなった。
俺の隠密スキルは、認識される前に使えば相手の意識の外へ存在できるのだ。
……フィールド外で審判をするアゼルには認識できていると思うが。
だって、開始直後から俺しか見てないんだぞ?
じーっと突き刺さる視線が恨みがましく思う。き、緊張してしまうじゃないか。
あれで本人は見守っているつもりなのだ。
初めて娘の参観日に来た父親レベルの熱い視線だ。
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