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第101話
♢
で。
突然だが、俺とリューオはトレーニングスペースで模擬戦をする事になった。
事の経緯は膝枕で蕩けたアゼルを復活させた後、バーサーカーリューオが「フルのお前と戦ってみてぇ」と言い出したのが始まりだ。
そうすると俺は構わなかったのだが、アゼルが全力で拒否した。
俺がやるなら自分がやると剣を召喚してグルルルと唸っていたが、元々トレーニングに付き合ってもらう約束だったし俺も魔法のカンを取り戻したい。
別にいいと言った時のアゼルの顔は萎びていて、子犬のようだった。……かわいかった。
そして現在ついてくると駄々をこねて仕事に戻らず審判をしている魔王様。
戦う前から俺の旗を上げるのをやめるんだ。
堂々と八百長もいい所だぞ。
剣を構えて向かい合う俺とリューオ。
お互いに部屋着というコンビニでも行くのかと思う軽装だ。
「シャル」
「ん?」
聖剣……白く輝く魔族特攻の大剣を構えるリューオと違って、形は刀っぽいが両刃の細身の剣を構える俺。
試合直前なのに、アゼルが声をかけてちょこちょこと無言で近づいてくる。
「闇、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性」
「オイコラどんだけ堂々とドーピングしてんだ魔王テメェッ!」
八百長の次はドーピングをし始めたアゼルに、リューオはドガァンッ!と聖剣で地面にヒビを入れながら怒鳴った。
堂々としすぎてポカンとしてしまったぞ。
ちゃんとお互いに手加減する事はわかっているのに、過保護がすぎる。
だがリューオに怒鳴られてもアゼルはしれっとしたまま凶悪顔で睨めつけかえす。
「アァ?アホかテメェシャルは病み上がりだぜッ!手足もげたらどうすんだ!?か弱さの塊だぞ人間なめんなよ!」
「人間舐めてんのはテメェだろ幼児じゃねぇんだよ成人男性なんだよそれェッ!」
「病み上がりって、一ヶ月前なんだがな。寧ろどうだ?筋トレを再開してからまた逞しくなってきたと思わないか?」
「何言ってんだヒョロヒョロだ!同じ人間でもあのクソ勇者の方がまだ屈強だぜ!」
「ひょ、ひょろ、ひょろ……うぅ……あんなライトヘビー級ボクサーと比べるとそれはそうなるだろう……俺だって身長は百八十以上あるんだぞ……男心の侮辱だ…」
散々な言われようだ。
俺は小さくもなければひょろくもないぞ。現代では高身長だと言われていた。
せっかくここの所筋トレの成果を感じていたのにショックでくっと唇を噛む。
リューオと比べるのがまずよくない。
「馬鹿野郎ちっせぇよ俺は百八十五だかんな」
「ヨッシャ俺百八十八だわ、勝ったな魔王」
「はぁ!?まだ成長期あるぜッ!」
俺がしょげている間にもう何度目かの勇者VS魔王が始まりかけている。
と言うか魔族は大体大きいが、リューオは日本人のはずだぞ。何を食べたらそんなに大きくなるんだ…?
疑問符を浮かべながらも、決して軟じゃない自分が貧弱扱いされる事に落ち込む。
ここからしょげた俺が復活して二人の言い合いを終わらせ、俺のバフを解いて貰うまで半時間はかかった。
アゼルは早く仕事に戻らないとまたライゼンさんに小言を言われると思うんだが。
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