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第165話
なんでアゼルがここにいるんだ?
仕事はどうしたんだろう。
俺は行ってらっしゃいのキスをして出て行ったアゼルを見たはずだが。
だがアゼルは俺の混乱を尻目に、仁王立ちのままへの字口でゼオを睨み、親指をくっと俺に向ける。
「これは、俺のものだ」
「あぁ〜……はい、わかります。諦めます。魔王様から奪える気がしないんで。心底本気になる前ですし全然イイです」
向けられたゼオはアゼルに皆まで言うなとばかりに軽く手を振って、あっさりと頷く。
事態を俺より早く飲み下したのか、ゼオはスっと変わらず普通に直立した。
そして周囲にいつぞやの無人サークルが形成されている。
野次馬をされることなく、綺麗に逃げるように避けられた空間。
「チッ……なら許してやる。喜べよ、テメェの普段の仕事ぶりからの無罪だぜ?」
「ありがとう御座います。既婚者ぐらいならちょっと威嚇したんですけど……妃はキツイ」
「横恋慕上等なくらいにはキテたんじゃねぇかコノヤロウッ!!」ドカァンッ!
「!?」
しれっとするゼオにアゼルがノーモーションからのボディブロウをいれて、ゼオの身体がくの字に曲がり空高く跳ね上がった。
俺はビクゥッ!と驚いて慌てて上を見上げる。
ツッコミか!?ツッコミにしては威力が強すぎるぞ!
「ぜ、ゼオ!」
「やばい。アバラ折れた」
それでも無表情のゼオはパタパタと翼をはためかせてふわふわ元の場所に降りてきたものだから、俺はなにがなにやら混乱してアゼルの肩を掴んだ。
こらアゼル、触られて嬉しそうにするな。
そういう場合じゃない。
お前たちは頭がいいからうまく理解できるのかもしれないが、俺は一人で誰よりも焦っているんだ。わけがわからん。
とりあえず。
「アゼル、ツッコミで人の骨を折ってはいけない。ごめんなさいをして、治すんだ」
「!な、なんでゼオを庇うんだっ?それにあのくらいじゃ折れねえよ!」
「貴方様のポテンシャルだとまぁ折れてますし、ツッコミというか怒りのボディブロウです。もう治しましたけど」
「ほら、無傷だ!」
アゼルはどこぞの空軍長官なのか。
以前も蹴りを入れて部下を吹き飛ばした友人が、治癒魔法で回復した部下を無傷だと言い張っていたのを思い出す。
だがゼオ本人が「頭吹き飛ばすのもツッコミも手加減してくださってるんで大丈夫です」というので、俺は心配になってゼオのアバラを触ろうとした。
ペシッ
「ん」「……」
なんで手を叩き落とすんだこの魔王様め。
俺が懸命に何度も手を伸ばそうとすると全て叩き落とすアゼルは、その後いつかの拘束プレイのように俺の両手を闇魔力で縛ってご立腹で正面から抱きしめた。
そうされると抜け出せないじゃないか。
温かい腕の中で困り果てた俺である。
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