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第164話

「綺麗ですけど、傷付きやすい育てるのが難しい花です」 「あはは、そうか」 俺はやっぱり似ているその花を鉢ごと抱え、支払いのカウンターに持っていく。 姿も名前も、そして中身も似ているなんて、これは買わない手はないぞ。 袋に入れてもらっている間に店の外を見ると、日が傾いておやつ時といったところだった。 今頃、今日はお菓子を作っていないので、拗ねながらティータイムをしているのだろうか。 毎日それが楽しみだとぼやいていたからな。 嬉しい限りだ。 ふふふ。約束通りお土産があるから、期待して待っていてほしい。 「なんでその花を買ったんですか」 花を買った俺はそれをしまい、ホクホク顔でゼオと並んで店の出口から外へ歩いていく。 ちょっと浮かれて油断していた。 気を許していたというのもある。 「似ていると思って、ついな。そうしたら名前も似ていて驚いた。シャリディアスなんて、まるで俺とアイツの花のようだ」 「名前?」 「あぁ。俺のお嫁さんは、アゼリディアスという」 「……はい?」 にこにこと語る俺の言葉を聞いたゼオが立ち止まり、ほんの僅か目を丸くした。 ん? あれ? お店を出て通りを歩きながらホクホク顔で答えてから、俺は失言してしまったことにハッとして気がついた。 しまった。 魔界においてアゼリディアスとは、嘆きの魔王アゼリディアスのことだ。 それはつまり俺の嫁が魔王で──魔王の嫁である俺は鬼族のシャウルー・ウォーカーではなく、人間のシャルなわけで。 「あ、そ、いや……っ」 どうにかしてごまかさなければ!と立ち止まってしまったゼオに向きなおり、逃げられないようにトンと彼の両肩に手をおいて焦りの滲む顔をする。 当のゼオは無表情ながら薄く口を開き、俺をじっと見つめていた。 俺もじっと見つめて、言い訳を言おうと詰め寄る。 と。 「〜〜〜〜あぁぅぅッもうコソコソなんてやってられるかッ!!」 「アッ馬鹿野郎ッッ!!」 通りの向こう側の路地裏からなにやら辛抱たまらん声が聞こえる。 そして、え?と振り向こうとした瞬間。 ドゴォンッ! 「どいつもこいつも近いッッ!!」 パッと目の前のゼオの頭が消え、それがあったはずの位置に黒いツララのようなものが襲いかかり、真横の壁に突き刺さっていた。 この一連の流れに、俺はあっけにとられ、目をぱちぱちと瞬かせる。 ゼオは咄嗟に身を引いたのかツララの向こうで無事だったが、口元を押さえてなにやら特大のため息を吐いた。 あぁ、ええと、犯人はわかった。 わかったが、状況はわからない。 パチンと指を鳴らす音がして、巨大なツララは元からなかったかのように消え去る。 だが痛々しい破壊のあとがどこかの店舗の壁にある。 貫通しなかっただけ、かなり手加減はしたみたいだが……。 「アゼル」 壁のクレーターをどうしようかと困った声で名前を呼ぶと、俺とゼオの前に立つ犯人──アゼルは腕を組み、仁王立ちをして鼻を鳴らした。

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