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第163話

結局食べ終わるまで終始無言でこちらを見つめていたゼオは、ランチの会計を俺の分まで済ませてしまった。 まさか付き合ってくれたお礼にと俺が金貨を取り出すより早く支払われるとは。 まだまだ修行が足りないようだ。 なので支払いを済ませてさっさと店を出たゼオを尻目に、店で出していた紅茶のお持ち帰りを買い、自己満足だからとゼオに押し付けた。 本を読む時の休憩で、よく紅茶を飲むと聞いていたのだ。雑談の内容が役に立った。 そうすると「貢がせたみたいで気分が悪いです」と無表情から露骨に嫌そうにするので、俺はいつぞやのザラ紙のメモに〝気持ちの落とし物です、私の為に受け取ってください〟と書いて紅茶の紙袋に貼り付けた。 流石にずっと無表情だったのにわかりやすく変化させられるとわざとだとわかる。 笑いながらそう言うと、ゼオは静かにため息を吐いた。 「……既婚者か……」 ◇ ゼオにこの辺の奇術館以外のデート向けのスポットを教えてもらいながら、しばらく雑談をしつつ街を歩く。 買い物のできる場所はどこがオススメか聞くと、衣服店やら雑貨屋などが立ち並ぶ通りに連れてきてくれた。 アゼルはオシャレだから、アクセサリーショップには行きたいな。 それから魔族が大好きな紅茶専門店。あそこにティーカップが売っている。 そして魔界のペットショップ。 あれは俺が気になる、一緒に行ってみたい。 キョロキョロしながら通りを歩く俺を、ゼオは咎めずに隣で歩いてくれた。あれこれと質問するとちゃんと答えてくれる。 逆にゼオが寄りたいお店にも、俺はついて行って興味深く眺めた。 魔物捕獲用の罠なんてどうするんだろう。 用途を尋ねると「脱走する変態アンデッドを捕獲するんです」と返ってきた。よくわからないがアンデッド退治でもするのか? トラバサミをいくつも召喚魔法域に保管する姿を眺めつつ、俺はふと通りすがった一つのお店の前で足を止める。 「ここを見てもいいか?」 「ん、花屋ですか」 軽く頷く。ゼオの許可を取り比較的可愛らしいウッド調のお店に入ると、中にはたくさんの花や植物が並んでいた。 檻に入れられた人食いのものもあるが、可愛いのもある。 俺は通りから見えた一つの花に近寄り、身をかがめて、なんとなく嬉しい気持ちでそれを見つめた。 まだ蕾で咲いていないが、薄い桃色のグラデーションをした花弁が美しい、百合のようなシュッとした花。 そんなに背丈はなく二十センチほどで、半分が花だ。 花は大きいのに茎は細くて、よく見ると風で折れそうなか弱さがある。 珍しい花なのか、お値段は一本金貨一枚と高貴な代物だった。 「シャリディアスですね」 「ゼオ」 声をかけられ振り返る。 こういうところにはあまり来ないのか一人で店を見ていたゼオが、いつの間にか後ろにいた。

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