167 / 615

第167話(sideリューオ)

ハッとしたリューオは、すぐに壁ドンをやめ、少女の体をなるべくそっと押し返した。 道行く魔族達がジロジロと如何わしそうに見ている。往来で女にこれはまずい。 「あーいや、悪ィ、人違いだわ。だから離してくんねェ?」 「やだ、あんなことしておいて間違いだから捨てようなんて、酷い人……」 「待て待て言い方ァ!」 「愛してるって言ってくれたのに?」 「間違いだっつってんだろ!?」 しかしなぜか一向に離してくれない少女に、リューオは女じゃなければ引き剥がしてるのにと、ままならない現状にジレジレと焦る。 魔族の女性は押しが強くて大胆。 お世話になっている陸軍の長官にそんなことを聞いていたが、まさかこれほどとは。 首に抱きつく少女はオーガ姿のリューオ相手なのでブラブラ浮いていて、引っ張ろうにも掴みにくい。 いやだって腰とか腹とかやりにくいだろ。 困惑するリューオに、少女はクスクスと笑って茶目っ気たっぷりにウィンクした。 「ねぇ、お買い物に付き合ってくれませんか?欲しいものがあるんですけど、私じゃ重たくて持ち帰れないので、お手伝いして下されば許してあげます」 「アァ?」 ギロッと持ち前のヤンキーフェイスで睨んでしまったリューオを怖がらず、ニコニコと笑う少女。 自分の顔や態度を怖がらない女は、そういない。 内心で少し好感度が上がる。 そもそもリューオにはいつも──明確な意志がある。 それはなにか。 自分の行動で起こったことは、自分の責任ということだ。 例えば無理矢理異世界トリップさせられたのはリューオの行動のせいじゃないので、不快だった。 他人のせいで起こった物事だ。 王の話を聞いて魔界に来たのは自分なので、嘘を吹き込まれ都合良く担がれたのは、別に気にしていない。 これは鵜呑みにした自業自得だ。 そんなルールに乗っ取ると……今回は自分が人違いをして見知らぬ少女を掴みあげ、壁ドンをキメたのが発端である。 「……どこに行きゃイイんだオラ」 「そうこなくっちゃ!」 嬉しそうに笑う少女が、首から手を離して降りたので、渋々頷く。 リューオは内心で奇術館にいるはずのシャルに謝り、行動の責任を取ることにした。 ♢ 少女に連れられやって来たのは、奇術館の二軒隣にある魔導具屋だった。 ちなみに魔導具とは、そのまま魔力を使う雑貨ということである。 「私は魔力があまりないので、召喚魔法域も隙間がなくて……後、整理が苦手」 「どう考えてもそれだろ容量不足」 てへぺろ、と笑う少女の額に軽くデコピンをすると「乙女の額になんてことをっ!」とポカポカ殴ってきたがリューオにはノーダメージだ。 余裕でニヤニヤするリューオにぷく、と頬を膨らませ、少女は目当ての魔導具のところへ歩いていくから、笑いながら追いかける。 妹を持ったようで、少し楽しかった。

ともだちにシェアしよう!