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第168話(sideリューオ)
──数時間後。
「んん〜コレとコレならどっちかなぁ〜」
「面倒くせぇな、どっちでもいいから早く選べよ……ッ!」
和気あいあいとしていたはずの二人だが、一転。
大きなドレッサーの前でかれこれ一時間以上悩む少女に、気の短いリューオは、顔にイライラを貼り付けていた。
女が好きそうな桃色のメルヘンなドレッサーと、ウッド調のカントリーなドレッサー。
どっちでもいい。
と言うか言わせてもらえるなら、どっちも興味ない。
リューオはいくらか話したこの少女が嫌いじゃないが、買い物の長いやつはみんな嫌いだ。
本音を言うと、待つのが嫌いだった。
「魔導小型加湿器に加速ハイヒールに魅了香水、全部一時間近く迷った上に締めがコレかよ!これ以外持ち帰れるじゃねぇかテメェ、ついでに買う魂胆だったな!?」
「いいじゃないですかぁどうせ同じところで買うんですから〜それよりこのドレッサーどっちが私に似合いますか?」
「ドレッサーに似合うとかねぇわアホ女!」
ガオガオと吠えるリューオを素知らぬ顔でかわした少女は、やれやれと呆れたように溜め息を吐く。
吐きたいのはこっちだコラ。
チッと舌打ちをする。
しかし少女は、そうは言いつつも律儀に待ってくれていたリューオに、内心で微笑んだ。
買い物に付き合ってくれる人が欲しかっただけだが……このオーガはいい人だ。
少女はリューオとじゃれ合うのは、意外と楽しいと思っていた。
彼がフリーなら狙おうかな、という思考が過ぎるくらいには。
「もう、あなたが決めた方を買いますよ。決めてください。ちゃんと考えてね?」
「チッ!」
リューオは少女の言葉に文句を飲み込んで、カントリーな方のドレッサーを抱える。
なるほど。
そっちが好みなのかな。
あまり可愛いを押し出したものは好きじゃないのかと頷き、少女はカウンターに歩いていくリューオを、軽い足取りで追いかけた。
そうして、会計を終わらせた後だ。
これでさよならとはいかない。
買った物を一旦リューオの召喚魔法でしまって、少女の家へ運ぶことになった。
「お前の家どこなんだよ」
「ここからちょっと行ったところなんですぐですよ」
「おう。ってあぁもうくっつくな暑い!」
「ちょっとだけっいいでしょ?」
「ハァ……」
魔導具屋の出口に向かいながら、腕を絡めてくる少女。
リューオは抵抗を諦めて、好きなようにさせる。言っても聞かないのだ。
普段は口と目つきが悪いからと女性には怖がられていたので、魔族女性のこの強引さは慣れない。
逆らう方が疲れる気がして、もう後少しで終わるからと納得することにする。
そんなリューオが前を向くと──入り口に今まさに入店しようという少年が、一人見えた。
「…………」
瞬間。
ギョッと目を見開いて、わなわなと震えるリューオ。
入って来たのが誰か、わからないような距離じゃない。ならば今度こそ、間違いではないだろう。
なぜ、こんなところに。
いや、こんなタイミングで。
じっと目を丸くしてこちらを見つめていた彼は、自分に気付いたリューオにスッと目を細める。
「……ふぅん、変装までして街で火遊び?」
本物のユリスが現れた!
リューオはどうする?
少年……ユリスが声を発した途端、リューオの脳内で、そんなアナウンスが盛大に流れてしまった。
凄まじいバッドタイミング。
これが間違いだったらどれほどよかったか。
最早変装が一瞬で見破られたことよりも、この状況を見られたことに、言葉も出なかった。
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