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第169話(sideリューオ)

「?知り合いですか?」 「知り合いじゃないよ」 首を傾げてリューオとユリスを交互に見る少女の言葉に、ユリスはニッコリと間髪入れずに答えを返す。 やべぇ。 なにがやばいのかというと、リューオの前で笑顔なのがやばいのだ。 怒り過ぎて抑えようとした結果の笑顔。 それもそうかもしれない。 ユリスからすると、普段しつこく好き好き言っていた男が実はコッソリ街に降りて、自分と似たような少女に腕まで組んでいるのだ。 しかも特に嫌がる様子もなく。 そりゃあ、コイツは小柄で犬耳があれば誰でもいいのかと、背筋も凍る愛らしい笑顔になるだろう。 「それじゃあ赤の他人のオーガさん、さようなら」 「っ、ま、まて……ッ!」 「追いかけてきたらタマ取るよ」 それはどっちのタマだろうか。 殺気混じりで睨むでもなく、一転して無表情でチラ見で踵を返して行ったユリスに、リューオはサラサラと砂になって行く。 ──あぁ愛しのユリス。 (タマ)でも金玉(タマ)でもやるから、ガチのキレ顔はやめてくれ……! 「……ちょっとオーガさん、まさか私と間違えた人って今のケートスですか?」 「ぅあ?」 砂になっていくリューオは、少女が不満げにペシペシと叩く衝撃でボケッと現実を見る。 魔導具屋の店員と客が後ろで「修羅場か」「そっすね」と話の種にする声が聞こえたが、ツッコむ気力すらない。 少女にグイグイ引っ張られながら店から出つつ、リューオはふらふらと少女の家を目指して歩いた。 初めてあんなに怒ったユリスを見た。 軽薄な男だと思ったのだろう。 ユリスは秘密が嫌いだ。 前に仕事帰りに抱きついた時の話。 デリカシーがなかったのもだが、陸軍の手伝いを仕事にしていると知らなかったから怒っていたんだと、後でシャルから聞いた。 きっと、半年近く愛をささやき続けていた男は、その裏でずっと他の女と逢引していたんだと、知らずにいた気持ちだろう。 そう思うと、リューオはすぐにでも誤解を解きたかった。 付き合っているわけではないし、自分のことを好いてくれているわけでもないだろう。 けれどいい気分じゃないはずだ。 だからあんなに怒っていた。 だが男として、本気でついてくるなと言っていたのに、無視して追いかけるのはユリスの意志を蔑ろにすることになる。 それはよくない。 本能の赴くまま行動してきたリューオは、魔界に来てからかつてないほど頭を使って、ユリスの気持ちを考えていた。 そしてかつてないほど落ち込んでもいた。 魔界に来て初めて肩を落としてしょんぼりとしながら、トボトボと少女の横を歩く。 リューオは鈍感ではない。 デリカシーはないが、自分に向けられる悪意も好意もちゃんと人並みにわかる。 しかし、常日ごろツン全開のユリスが女の子と腕を組むリューオを見て、なぜあんなに怒っていたのかの真意には──全く気がついていなかった。 普段のツンの比率が高すぎて、まさか嫉妬していたなんて……思いもしなかったというのが正しいかもしれないが。 教えてくれる人は、この場にいなかったりする。

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