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第174話
「ふ……」
「よし」
口以外動かさない心意気で、最後の一口をコクリと飲み込む。
食事を終えると、アゼルはようやく空になった皿とスプーンを置いた。
ほっと胸をなでおろす。
普段はハニカミ屋で素直じゃないくせに、こういうお仕置きをする時だけは強引で意地悪だからな…。
空いた食器を浮かせて台車に移動させた。
食器を片付けたテーブルには、いつものデザートの桃と果実水だけが乗っている。
「シャル」
「ん……?」
一息ついた俺に、アゼルが声をかけた。
そしてその手はトントンと自分の膝を叩いている。
……なんのトントンだ。
俺は、口の中を弄ばれて少し赤くなっている顔を、くしゃりと歪ませた。
今夜ばかりは、わかりやすく顔に〝困ります〟と書いておきたい。
だがアゼルはあえて無言のまま、にまーっと口角を上げて、またトントンと膝を叩く。
く……!あっちの顔にはわかりやすく〝別に来なくてもいいけど後で触ってやらねぇぞ〟と書いてあるのが悔しい。
俺が逆らってこのまま悶々と身を固め、黙ってアゼルの隣で眠るなんて拷問、されたいわけがない。
それを知っているくせに、卑怯だ。
ガタン
「は、……く……」
俺はどうにか立ち上がり、そろそろと動く。
そしてアゼルの温かい膝に、横向きの体勢でそーっと体を下ろした。
チョロくない。
チョロくないぞ。
これでも元勇者、魔王を尻に敷くなんてなかなかできることじゃない。
だ、だから機嫌良く腰を抱くのをやめてほしい……!
「っ、っぅ……っ、ちゃんと触らないなら、あんまりその、触らないでくれないか……っ」
「俺はお前が落ちないように抱いてやってるだけだぜ。むしろ健全な俺の善意に、触られただけで感じてるお前が悪い」
「ん、ん?……そ、うか……?」
尻尾があればそれはもうはちきれんばかりに振っているだろう、見事なニヤニヤっぷりのアゼル。
その暴論に、俺はあまり余裕もないのであっさり丸め込まれてしまった。
そうか。俺が今感度アップのムラムラ状態異常なだけで、俺をアゼルが抱きしめるのはいつものことだ。
アゼルは俺を丸め込むと、テーブルの桃を一つフォークで刺しパクリと食べる。
また卑猥なあーんをされるのかと思った俺は、安堵の息を吐く。
残念ながら俺はキスのされ過ぎで、口の中も割と感じるんだ。
だがしかし。
アゼルは口に入れた桃を飲みくださず、フォークを置いて俺の頭を引き寄せる。
ちゅ、
「っん、!、ふ……っ」
息がかかるような至近距離。
間を置かずに重なった唇。
それを介して、甘く熟した果肉と熱い肉厚の舌が、一緒くたに入り込んできた。
一欠片ぶんの桃を全て飲み込まさせられると、果汁と唾液が混ざり合い、甘い吐息と共に口の端から流れおちる。
「は、っ、ん、ぅ……」
「ふ……ククク、ちゃんと噛めよ。喉に詰まるぜ」
「ンン……っ」
ペロリとこぼれた果汁ごと顎から首筋を舐められ、ビク、と快感が走った。
や、やっぱり卑猥なあーんだったじゃないか……!
俺の安堵を返してくれ……!
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