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後話 受難体質大河勝流

変装までしてデートの下見に行ったのに、突然たまたま近くに用があったらしいアゼルに浮気だとか無防備だとか叱られた俺。 あれから紆余曲折、どうにか城に帰ることができた。 アゼルは俺を抱きしめゼオを威嚇していたが、ゼオは「魔王様が愛している人を奪うなんてそんなに生き急いでないです」と相変わらずの無表情でどうどう、と宥めていた。 そしてリューオは最後まで路地裏から出てこなかったぞ。 うう、なんとも言えない味付けの街ブラだったな……。 だがまぁ、総合すると楽しかった。 城下町は見どころ満載で、新たな出会いもあり、素敵なお土産も買えた。 大満足だ。 ……大満足なんだが。 「シャル、食事がまだ終わってねぇぞ」 「きょ、今日はそんなに、腹が減らない……」 わかっているくせに白々しく急かしてくるアゼルに、俺はモゴモゴと言い訳をしながらシチューをすくって口へ運ぶ。 いつもならきっと、トロミのある濃厚なシチューに心躍ったはずだが、今は味なんてちっともわからない。 理由はもちろん──このスイッチが入った魔王様のお仕置きによるわけで。 理性を失い貧血になるほどじゃないが、しっかり体がその気になってしまうような吸血で、催淫毒がまわっているからだった。 アゼルは俺が気持ちいいことに弱いのを知っているので、疼く体を持て余している様を眺めているのである。 自分で慰めるのも、触れるのも禁止。 かといって手を出してはくれないので、生殺し状態だ。 服がこすれると変な声が漏れそうなので、あまり動きたくない。 だがディナーを終えるまで、目の前のアゼルは席を立たせてくれないだろう。 なるべくそっと腕を動かし、残り僅かなシチューを懸命に食べる。 火照った体にため息を吐きたくなった。 気合を入れれば我慢できる範囲だが、そういつまでもできるものでもない。 「ン……、ん……」 「クク、風呂にもいれてやんねぇとだからな、俺が手伝ってやる」 「!いや大丈、ンぐ」 どうにか食事をつつがなく終えようと足掻く。 けれどのたのたと覚束ない俺を、ニヤニヤしながら眺めていたアゼルが、俺の手からスプーンを奪う。 そしてシチューをすくい、俺の口元へ突っ込んだ。 「ふ、っ」 口端から溢れるシチューを指先がすくって舐めとる。 不意の他人からの刺激で舌が痺れたような感覚に陥り、ビクッと一瞬体がはねた。 くそう、面白がっているな。 「口開けろよ、また零すぞ?」 「ン、自分でやるから、もご、」 「オイ、俺のあーんじゃ不満だっていうのかよ」 「そうじゃないが……っ」 輝いている。 アゼルが今日一番輝いているぞ。 俺はわざと舌や顎の襞を擦ってくるスプーンに追い詰められながら、膝に両手をおいてやけっぱちになりつつ食事を進めた。

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