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第176話

♢ 脱衣所にやってくると、先手必勝とばかりにアゼルが抱きつく。 そして俺の熱が引かないうちに背後から首筋に噛み付いて、チート、もとい吸血をし始めたのだ。 流れ込む催淫毒に、触れると過敏に反応するくらいだった高まりがまたグッと盛り返す。 肌を食い破ってチュルチュルと血を吸われる感覚に、俺は早くも膝から崩れ落ちそうだ。 ピチャ、と傷口を舐めてからアゼルの体が離れるが、温もりは収まらない。 あぁくそう、キスしたい。 ニヤニヤと楽しそうなその唇を塞いでやりたい。 火照って熱い頬を自分の手の甲で抑えつつそう思うくらいには、俺は既に興奮していた。 早くも敗色濃厚か。   「う……開き直ったら勝ちだ」 ウキウキしながらさっさとアクセサリーを外し、服を脱いで脱衣かごに入れているアゼルを横目に、己に言い聞かせながら服を脱ぐ。 躊躇したら負けだ。 無我の境地を目指さなければ。 衣服が擦れないように注意して時折呻きつつも、どうにかこうにか服を脱ぐ。 そうしていると、強い視線を感じた。 「あのな、ガン見はやめてくれ……っ」 「クックック、今更なに言いやがる。一緒に風呂に入るなんてイベント、いつもやってるじゃねぇか。クックック……!」 楽しそうだな本当にお前は。 一足先に準備を終えたアゼルが、腰にバスタオルを巻き腕を組んで壁に持たれながら、俺が苦戦しているのを鑑賞していた。 未だにベルトを外しベストを脱ぎ終わっただけの俺と違い、アゼルは惜しげもなく彫刻のような肉体美を晒している。 前哨戦がすでに開始しているとみた俺は、余裕のアゼルに打って出ることにした。 シャツの裾を掴んで、ガバッ!っと一気に脱ぎさる。 「く、っ、!んんん……っ!」 「ンな、」 まさかの守りを捨てた短期決戦に、アゼルが驚いたのかサッと顔をそらした。 それにニヤリとして、俺は次いで下の衣服も勢いで片付ける。 ふっふっふ、アゼルは押しに弱い。 こっちが恥ずかしがっているとハツラツとし始めるが、堂々とすれば逆に恥ずかしがるやつだ。 こすれる布地に何度かビクッと震えつつも、俺は敢えて一気に動く。 「はっ、ンっ、っ」 「おっお前変態か!そっとやれそっと!不健全な顔になってる!」 「うぁ……ッ、フッ、一緒に風呂に入ろうと、服を脱いでいるだけだが……?ンン……!」 「ぐるるる……!」 唸るアゼルに対し勝ち誇る俺、形勢逆転。 変な汗が出てきているがニヤニヤとしながら全裸になり、しっかりとバスタオルを腰に巻いた。 でなければまずいのだ。捨て身の代償がな。 はぁはぁと荒い呼吸を抑えつつ、俺はアゼルの腰に誘うように腕を回して、飛びそうな理性に鍵をかけ直しニヤリと笑う。 「さぁ、洗いっこの時間だぞ、ハニー……!」 「お、お触り禁止だ!!」 無意識になでてしまったから、やっぱりちょっと理性は飛んでるかもしれない。

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