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第177話

◇ 魔王の私室にある浴室は、なかなかの代物だ。 速乾性のタイルが敷かれ、常に清潔。 窓はないが灯りは天井にあるので、柔らかなオレンジ色の光に照らされた室内は十分に明るい。 湿気は水気を吸って空気を吐き出すパキラのような植物があるので、それを隅に置くだけで除湿完了だ。 十畳ほどある広い浴室には、俺とアゼルが二人で入って足を伸ばしても余裕がある、大きな猫脚バスタブがある。 そこには夕食前に魔導具を稼働させたので、暖かな湯が溜められていた。 金のドラゴンモチーフのシャワーヘッドは掴みにくくて、何度使っても慣れない。 べっ甲のような容器に入ったユリスおすすめの髪用洗料は、毎日使っているものだ。 現代にいた時より、髪がサラツヤになった。 このどこぞの高級ホテルのスウィートルームにでもありそうな部屋風呂。 これが本来アゼルのためだけに用意されていたと言うのだから、驚きである。 とはいえアゼルは基本水浴び育ちなので、シャワーにしかあまりお世話になっていなかったみたいだな。 対して俺は風呂が好きなので、二人で住むようになってからはいつも湯船に浸かっていたりする。 そんな豪奢な浴室に勇んでやって来た俺は──現在木製のバスチェアに腰掛け、前屈みに口元を押さえながら悶えていた。 「ヒッ、あ、ぁ……っう、うぅ……っ」 「…………」 ん?なにをしているのかって? 髪を洗ってもらっているだけだ。 体は「今のお前にそういう触られ方すると、俺が負けることぐらいわかる」と真顔で言い切られて、各自で洗った。 けれどそれでは俺一人、ムラムラして敗戦してしまう。 なので角が邪魔で自分じゃやり辛いから髪を洗ってほしいと、先手を打ったのだ。 体を洗う時にだな。 アゼルが背中を洗ってやるとか、洗ってるとこ見ててやるよとか、言ってな。 意地悪をしながら俺が我慢できなくなる時間を稼いできたんだ。 正直、下半身の限界が近い。 できれば一回出しておきたい。 が、自分で触ると負けであるし、そうなったら歯止めがきかないだろう。 「…………」 「ふ……っ、ぁ、ン……ん……っ」 俺は頭をわしわしと擦られて声を抑えられず、膝を抱えてされるがままだ。 後ろから俺の髪を洗うアゼルには見えないようにしているが、太腿をギュッと内に寄せ、足首を鬼化し少し鋭くなった爪でカリカリと引っ掻いて、懸命に耐える。 うん、声は諦めたのだ。 それより張り詰めたモノのせめてもの隠蔽に必死である。 「あっぅ……!」 角の根本をコショコショと触られると特に気持ちよくてビクンッ、と背中が震えてしまった。 全く知らなかったが、なるほど、鬼の性感帯か。 「っ、ン、!う……っダメ、ダメだ……っううう……っ」 「……!」ワシャワシャ 「うぁ、ぁっ!」 集中的に根本をワシャワシャされて、俺は膝小僧にグリグリ額を押し付けて喘いだ。 頭を洗い始めてから無言のアゼルが恐ろしい。

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