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第210話
街の中を手を繋いで歩く。
俺は次に行くところを決めていたので、悠々と手を引いて楽しみだと話しながら進んだ。
城下町では街の人にチラチラ見られないので、視線を気にすることはない。自分達の王がどういう存在かよくわかっているみたいだ。
アゼルはスキップでもしそうなほど機嫌よく一心に俺を見つめて、城下町のアレコレをたくさん教えてくれた。
魔力スポットの魔王城で働く従魔や軍魔達は強く、その家族が多くいること。
魔力に惹かれた根無し草の強い魔族が集まるため、ここには強力な魔族が多いこと。
人口に比例してとても広く、いろんな種族に対応しているので、アゼルのようなこの世で一人しかいない魔族でも受け入れてもらえること。
そしてその分血の気が多いので、すぐに女をかけたり飲んだくれの勢いでタイマンを張り出す魔族が、本当に稀にいること。
ガシャァンッ!
「テメェ腕返せオラァッ!」
「んだと首返せゴラァッ!」
そういう輩は交代制で駐屯する軍魔がどうにかしているので、城下町は怖くないし魔界は平和なのだということ。
「はいそこまでー、誰か死んだか? 生きてる? 死んだら書類増えるからゼオ副官が凍らせにくるぜー」
「あぁもうブラックドックと石猿の決闘これで何回目だ。いっそ凍らせてくれ〜」
「陸軍の旦那方ッ! こいつが俺の酒を盗ったんですぜ!?」
「こいつが先に俺のつまみを食ったんですよ!」
「一緒に飲んでたのかよッ!」
ドカァァンッ!
「えええええッ!? な、なんだ!?」
重ねて言うが、魔族は優しくて魔界はとても穏やかなところだということ。
「そんなに言い聞かせなくとも、俺は嫌になって魔界を出たりしないからな?」
「ううあぁ、グルルル……ッ!」
血肉が飛び散ってもじわじわ回復している魔族達と、それを止めに来た軍魔達が。
そして騒動を全く気にしていない街の住民達。
アゼルは安定の過激ライフな日常で、騒いでおいて結局元は仲良く飲んでいたらしい元凶に向けて、衝撃波を飛ばし唸った。
突然の横やりに向こう側が混乱しているが、フンッと鼻を鳴らす。
うん、こういうのも含めて城下町デートということにしておこう。
俺はいそいそとアゼルの手を引いて、目的地のお店に入った。
カランカラン
「いらっしゃいまアヒェッ!?」
入ったお店はペットショップだ。
種類豊富な小さな子供の魔物達がたくさんいて、眷属にすることもできるみたいだ。
ドアベルを鳴らして中にはいると、カウンターにいる店員さんが挨拶を噛んだ。
うちの旦那さんが威嚇モードですまない。
優しい魔王様なので気にしないでほしい。
ややムスッとしているくらいだが、地が仏頂面なのと常時威圧のせいで、店員さんだけでなく店の魔物達も軒並み緊張感をだしはじめた。ちょっと申し訳ない。
「デート中の魔王様か、邪魔したら死ぬな……」
死なないぞ。
「俺は置物、俺は置物」
いや、自然にしていてあげてくれ。
お客さん達はアゼルをどう思っているのやら、気配を消して動かなくなった。
紅茶専門店でもこんな感じだった。
「シャル、ここは魔物屋か?」
「まぁそうだな。俺は動物が好きだから見てみたかったんだ」
「動物…………お、俺がいるだろうが」
アゼルの嫉妬の対象は動物も込みらしい。
……いくら本体は獣と言えども、魔物と張り合うことはないと思うんだが。
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