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第211話

「コカトリスの子供がいるぞ、ひよこだな」 「あんまりうまくねぇぜ」 「食べないからな」  ゲージをつんつんとしながら見て回る。  尾が蛇の鶏であるコカトリスの子供はひよこで、ピヨピヨと可愛らしい。  竜の子供なんかは流石にいなくて、扱いやすい小型の魔物がメインのようだ。  アゼルはなぜか主に美味しいか美味しくないかを教えてくれる。曰く愛玩用でなく食用だと認識することで、嫉妬の炎を鎮火しているらしい。  俺は密かにアゼルの元の魔物であるクドラキオンを探してみたが、やっぱりというか当たり前に見つからなかった。 「アゼルは本当にレアな魔族なんだな」 「んっ、クドラキオンは魔境にしかいねぇし、俺が死んだら魔族は絶えるからな。レアっちゃレアだ」 「……、そうか……」  自分の仲間がいなくて一人きりなことを、躊躇なく教えてくれるアゼル。  それはとても、寂しいことだろうに。  なんでもないように話してくれるのは本当になんでもないことだからなんだろうけど、俺は少しだけ目を伏せる。  魔族が細かいことを気にしない為に、俺は普段自分が男であると言うことを、そういう世間の目という意味では気にしていない。  強力な生き物であるが故に元々繁殖能力が低い魔族は、性に奔放で様々な相手と交わる。相手が同性でもあまり気にしない。  だから俺はアゼルに受け入れてもらえるかだけを気にするだけで済み、現代だと必ずついて回る世間体や差別の中に晒されずに、こうして手を繋いで街を歩けるのだ。  それはとても恵まれたことなんだろう。  本来は誰かが誰かを愛することに性別は関係なく、他人は何も口を挟むことは許されなくとも、俺の生まれた世界は無自覚の棘が突き刺さる世界だった。  あちらと比べると、この世界はずっと優しい。  でも。  どうしようもないことはあるのだ。  ふぅ、と、内心で溜息を吐く。  結婚する時にちゃんとわかった上で選んだことだが、やはり時たま思い出すな。  俺が、アゼルより先に死んでしまうこと。  俺が、アゼルの血を繋いであげられないこと。  わかっていてお前と結婚したんだ。  俺はなんて酷い男だろうと、たまに自分を好きじゃなくなる。  手を離す気なんてさらさらないくせに自己嫌悪は人一倍なんて、駄目な大人だな。  伏せた目をすぐに上げる。  ずっと一緒にいると忘れたくても忘れられない事柄で、アゼルと離れ離れになるまで付き合って行かないといけないもの。  まったく、これは楽しい日にわざわざすることじゃない。  俺としたことがセンチな気分になってしまった。 「ん。次はうさぎを見よ、……?」 「…………」  気分をサッと切り替えて今を楽しむべく、アゼルの手を引く。  けれど何故かアゼルがとても困ったような、焦ったような、複雑な顔をして俺を見ていた。  目を離したほんの数秒でなにかあったとは思えず、俺は首を傾げて見つめ返す。  空いている手でアゼルの頬をなでると、もごもごとなにか言いたげに擦り寄って来る。 「どうした? 寂しくなったのか?」 「うあ、うう……、……ちょっと、こい」  その理由を理解していないままグッと逆に腕を引かれて、アゼルは俺を外へ連れ出した。

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